1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,補1,補2,補3
「労働者の生涯所得」と「ジョブの現在価値」
このシリーズで紹介している基本サーチ・モデルは、10本の式からなる連立方程式として表現されます。今回扱うのは、そのうち以下の4本です。
実はこの4つの式は、「再帰性」のシリーズで一度出てきました。以下はその要約です。
将来にわたって得られる全ての収入の期待値の割引現在価値を、「生涯所得 (Permanent income)」と言います。今、失業者の生涯所得(将来就業できる可能性も考慮したもの)を と置きます。また、就業者の生涯所得(将来失業する可能性も考慮したもの)を と置きます。すると と は以下の2つの式を満たします。
式の説明はこちらを参照してください。
次に、欠員状態(求人中)のジョブが将来的に生み出す利益の現在価値(将来労働者とマッチする可能性も考慮したもの)を と置きます。また、充足状態のジョブ(既に労働者とマッチしているジョブ)が将来的に生み出す利益の現在価値(将来的にまた欠員状態となってしまう可能性も考慮したもの)を と置きます。すると と は以下の2つの式を満たします。
式の説明はこちらを参照してください。以上の4本の式は、まとめて「ベルマン方程式 (Bellman equation)」と呼ばれることがあります。
就業者と失業者の生涯所得の差 は、労働者にとって就業することの恩恵です。また、充足状態と欠員状態のジョブの現在価値の差 は、ジョブが労働者とマッチすることの恩恵です。どちらの恩恵の方が大きいかは、企業が労働者に払う賃金の大きさによって変わってくるはずです。次回はこの賃金の決定に関する式を説明します。
>> 労働市場論(サーチ・モデル)(8)交渉力が賃金を決める