目次へ

10111213補1補2補3

イントロ1

マクロ経済学の一分野に、労働市場論があります。これは、求人、賃金、失業率などの動きを説明し、政策に活かすことを目的とした分野です。そこでよく使われるモデルが「サーチ・モデル (search model) 」です。労働市場では、労働者は仕事を探し、企業は人材を探さなければなりません。その事実に焦点を当てたモデルなのでサーチ・モデルと呼ばれるのです。サーチ・モデルは、労働市場の様々な現象を直観的に説明できることから広く応用され、2010年には、サーチ・モデルの3人の先駆者(ダイアモンド、モーテンセン、ピッサリデス)にノーベル経済学賞が授与されました。


今日、マクロ経済学でサーチ・モデルが広く用いられる理由は、それまで使われていた普通の「需要と供給のモデル」だと、労働市場を分析するうえで不都合があったからです。それを理解するためには、まず普通の需要と供給のモデル(以下、「普通のモデル」)の特徴を理解しなければなりません。


普通のモデル

普通のモデルでは、労働を他の財と同じように扱います。ある人が時給千円で働いたならば、「労働を千円で売った」とみなします。賃金=「労働の価格」と考えれば、お米や自動車と同じように、労働にも需要と供給のモデルを当てはめられます。


さらに、普通のモデルでは「需要と供給が一致するところに価格が決まる」と仮定します。もし牛乳が1リットル10円であれば、牛乳をもっと買いたいと思っても買えない人が出てくるでしょう。逆に、もしマスクが1枚5000円であれば、マスクは売れ残るでしょう。普通のモデルでは、(神の見えざる手で)「不足も余りもしない、ちょうど良い所に価格は落ち着く」とみなします。


普通はそれで済むのですが、一国の労働市場を分析する際には問題が生じます。というのは、労働市場論の研究対象である「失業」や「人材不足」においては、労働の需給の不一致が起きているからです。不況時には労働者が仕事を見つけづらく、景気がいいときは企業が人を見つけづらい。「需要と供給が一致する」と仮定する普通のモデルでは、それらを全く議論できません。


サーチ・モデル

対照的に、サーチ・モデルは労働の需給が一致するという仮定を使いません。均衡状態においてですら、労働の “過需要”(求人)と “過供給”(失業)が並存し続けると考えます。「労働者」も「仕事」も千差万別であり、求人と失業があっても、すぐにマッチできるとは限らないからです。


サーチ・モデルの人気の理由は、驚くべき使い易さ (tractability)にもあります。その使い易さの理由は、サーチ・モデルの主要なアイディアとも言える3つの仮定です。次回は、その3つの仮定を紹介したいと思います。

>>労働市場論(サーチ・モデル)(2)イントロ2