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10111213補1補2補3

モデルを解く


このシリーズで勉強している基本のサーチ・モデルは、10変数・10式の連立方程式で表されました。


今回は、解き方です。変数の消去によって、2変数・2式まで減らすテクニックを紹介します。サーチ・モデルを応用した多くの論文で使われるテクニックです。(計算過程を不要とする人は、この回は飛ばして先に進むことができます。)


まず手始めに、(10)式(V_0=0)を他の式に代入します。すると(9)式(賃金決定式)は

    \begin{eqnarray*}W_1-W_0 = \beta(W_1- W_0 + V_1)\end{eqnarray*}


となります。


ここで、S\equiv W_1-W_0+V_1と置くと、

    \begin{eqnarray*}&&W_1-W_0 = \beta S\\\\&&V_1=(1-\beta)S\end{eqnarray*}


が出てきます(上の式から下の式は導ける)。これらの式はあとで用います。


次に、連立方程式の(5)・(6)式と、 V_0=0 を代入した(8)式を、合体させることを考えます。

    \begin{eqnarray*}W_0 &=& b + \frac{1}{1+r}\left((1-p)W_0 + pW_1\right)\\\\W_1 &=& w + \frac{1}{1+r}\left(\delta W_0 + (1-\delta) W_1\right)\\\\V_1 &=& y-w + \frac{1}{1+r} (1-\delta) V_1\end{eqnarray*}


2つめと3つめの式を足し、1つめの式を引くと、

    \begin{eqnarray*}W_1-W_0+V_1 = y-b + \frac{1}{1+r} \left\{ (1-\delta) (V_1+W_1-W_0) - p(W_1-W_0) \right\}\end{eqnarray*}


です。


ここで再び S= W_1-W_0+V_1 と置き、上記の W_1-W_0=\beta S も使い、さらに(2)式で p を消去すれば、

    \begin{eqnarray*}S = y-b + \frac{1}{1+r} \{ (1-\delta)S - z\theta^\alpha\beta S\}\end{eqnarray*}


となります。これが導きたい2本の式のうちの1つ目です。S\theta だけの式であることを意識しましょう。


一方、連立方程式の(7)式は

    \begin{eqnarray*}V_0 = -k + \frac{1}{1+r} \left\{(1-q)V_0 + qV_1\right\}\end{eqnarray*}


ですが、まず V_0=0 を代入し、次に上述の V_1=(1-\beta)SV_1 を消去し、さらに(3)式で q も消去してしまえば

    \begin{eqnarray*}0 = -k + \frac{1}{1+r} z \theta^{\alpha-1} (1-\beta) S\end{eqnarray*}


です。これが導きたかった2つ目の式です。これも S\theta だけの式です。


以上をまとめると、S\theta という2変数のみの式が、2本だけあることになります。(ここからさらに1変数1式にすることも容易です。)


式の数がかなり減ったので、外生変数(y, b, r, \delta, z, \alpha, \beta, k)の値を全て与えれば、S\theta の値をコンピューターで簡単に求められます。


そうしていったん \theta が求まれば、(2)式から p,(3)式から q が求まり、p が求まれば(1)式より u も求まります。また、(4)式より \thetau から、v も求まります。一方、いったん S が求まれば、V_1=(1-\beta)S より V_1 が求まり、V_1 が求まれば(8)式で w が定まります。一方、W_1-W_0 = \beta S より W_1-W_0 も求まり、W_1-W_0 が求まれば(5)式によって W_0 が求まります。W_1-W_0W_0が求まったので W_1 も求まります。


次回はコンピュータを用いて解いた結果を紹介したいと思います。

>> 労働市場論(サーチ・モデル)(12)数値シミュレーション1 賃金と失業