1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,補1,補2,補3
交渉力が賃金を決める
今回はサーチ・モデルの9本目の式、賃金の決定に関わる式です。
賃金 はどう決まるか。「神の見えざる手」に頼れないことは第1回に話しました。ではどうするかというと、ここにもサーチ・モデルのうまいアイディアがあります。
まずマッチが生み出す総余剰というものを考えます。前回説明したように、労働者の生涯所得は、失業中であれば ,就業中であれば ですから、労働者にとってマッチすることの恩恵は、差額の です。
一方ジョブの現在価値は、充足状態であれば ,欠員状態であれば なので、ジョブが労働者とマッチすることの恩恵は、差額の です。したがって、両者の合計 が、マッチによって労働者と企業が得る恩恵の合計、つまり「総余剰 (surplus)」ということになります。
サーチ・モデルは、マッチの総余剰を労働者と企業が の比で取り合うと仮定します。すなわち
です。上の式がサーチ・モデルの連立方程式の9番目の式です。下の式は上の式から出てくる( から上の式を引けば良い)ので、連立方程式には加えません。
この式じたいには賃金 は出てきませんが、実はこの式が間接的に賃金を決定します。サーチ・モデルの式の6・8番目を見ると、賃金 は や に影響を与えることが分かります。だから、労働者と企業それぞれが得る恩恵の比を と固定すると、逆に賃金の方が決まってしまうというトリックになっています。
次回は企業の求人数 がどのように決まるかを考えてみましょう。
>> 労働市場論(サーチ・モデル)(9)参入のゼロ利潤条件