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交渉力が賃金を決める


今回はサーチ・モデルの9本目の式、賃金の決定に関わる式です。

賃金 w はどう決まるか。「神の見えざる手」に頼れないことは第1回に話しました。ではどうするかというと、ここにもサーチ・モデルのうまいアイディアがあります。


まずマッチが生み出す総余剰というものを考えます。前回説明したように、労働者の生涯所得は、失業中であれば W_0,就業中であれば W_1 ですから、労働者にとってマッチすることの恩恵は、差額の W_1-W_0 です。


一方ジョブの現在価値は、充足状態であれば V_1,欠員状態であれば V_0 なので、ジョブが労働者とマッチすることの恩恵は、差額の V_1-V_0 です。したがって、両者の合計 W_1-W_0+V_1-V_0 が、マッチによって労働者と企業が得る恩恵の合計、つまり「総余剰 (surplus)」ということになります。


サーチ・モデルは、マッチの総余剰を労働者と企業が \beta : (1-\beta) の比で取り合うと仮定します。すなわち

    \begin{eqnarray*}W_1-W_0 &=& \beta (W_1-W_0+V_1-V_0)\\\\V_1-V_0 &=& (1-\beta) (W_1-W_0+V_1-V_0) \end{eqnarray*}


です。上の式がサーチ・モデルの連立方程式の9番目の式です。下の式は上の式から出てくる(W_1-W_0 + V_1 - V_0 から上の式を引けば良い)ので、連立方程式には加えません。


この式じたいには賃金 w は出てきませんが、実はこの式が間接的に賃金を決定します。サーチ・モデルの式の6・8番目を見ると、賃金 wW_1V_1 に影響を与えることが分かります。だから、労働者と企業それぞれが得る恩恵の比を (W_1-W_0) : (V_1 - V_0) =  \beta : (1-\beta) と固定すると、逆に賃金の方が決まってしまうというトリックになっています。


次回は企業の求人数 v がどのように決まるかを考えてみましょう。

>> 労働市場論(サーチ・モデル)(9)参入のゼロ利潤条件