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ポートフォリオのリターンの標準偏差1 「証券が2つの場合」


トヨタとマクドナルドの株式に同額ずつ投資した(つまりそれぞれのウェイトが0.5の)ポートフォリオPを考えましょう。仮に2つの株式のリターンの標準偏差がともに20%だったとしても、Pのリターンの標準偏差は20%にはなりません。食塩水であれば、20%と20%を混ぜた物は20%になりますが、投資のリターンの標準偏差ではそうはならないのです。


理由は直観的です。もし、トヨタとマクドナルドが完全に運命共同体であるならば、確かに2つを混ぜたPのリターンの標準偏差も20%になるでしょう。でも、「トヨタが不調なときは必ずマクドナルドが元気であり、逆にマクドナルドが不調なときはトヨタが必ず元気だ」というように、2つの株が「太陽と月」のような関係であるならば、2つを混ぜたPのリターンの標準偏差は0に近くなるでしょう。一方の値上がりともう一方の値下がりがいつも相殺されるのであれば、合計での不確実性はなくなるからです。このように、2つの株のポートフォリオのリターンの標準偏差は、2つの株のリターンの「相関」に大きく依存するのです。


こういうわけで、ポートフォリオのリターンの標準偏差を求める時は、食塩水の考え方をきれいサッパリ忘れる必要があります。代わりに用いるのは「分散公式」です。トヨタとマクドナルドの株のリターンをそれぞれ R_1R_2,ウェイトを w_1w_2 で表すことにすると、ポートフォリオのリターンは w_1R_1+w_2R_2 ですが、これの分散は

    \begin{eqnarray*}\mbox{Var}(w_1R_1+w_2R_2) = w_1^2\mbox{Var}(R_1) +2w_1w_2\mbox{Cov}(R_1, R_2) + w_2^2\mbox{Var}(R_2)\end{eqnarray*}


と表されます。次にこの分散公式を、標準偏差と相関係数で書き直しましょう。ポートフォリオ、トヨタ、マクドナルドのリターンの標準偏差を順に \sigma_P\sigma_1\sigma_2 と表し、相関係数を\rho と表すならば

    \begin{eqnarray*}\sigma_P^2 = w_1^2\sigma_1^2 +2w_1 w_2\rho\sigma_1\sigma_2 + w_2^2\sigma_2^2\end{eqnarray*}


(分散は標準偏差の2乗、共分散は標準偏差と相関係数の積です。)冒頭で挙げた例は、\sigma_1 =\sigma_2 =20\%w_1=w_2=0.5 という場合でした。これらを代入すると

    \begin{eqnarray*}\sigma_P^2 &=& (0.5)^2(20\%)^2 +2(0.5)(0.5)\rho(20\%)(20\%) + (0.5)^2(20\%)^2\\&=& 200 (\%^2) + 200 (\%^2)\rho\end{eqnarray*}


あとはトヨタとマクドナルドの相関係数(\rho)しだいです。例えば相関係数が \rho=1,0.5,0,-1 の場合を計算すると、順に \sigma_P = 20%,17.3%,14.1%,0%,となります。すなわち、トヨタとマクドナルドのリターンの標準偏差がともに20%であるとき、両者の相関が1のときだけは、ポートフォリオのリターンの標準偏差も20%となり、相関が1でないときは、20%よりも小さくなります。これが「分散投資 (diversification) 」の効果です。


2つの株のリターンの標準偏差が異なる場合でも似たようなことが言えます。トヨタが10%、マクドナルドが20%だとして、2つを半々に混ぜたポートフォリオのリターンの標準偏差が平均の15%になるのは、両者が完全相関している場合だけです。ふつうは15%より小さくなります。以下に練習問題を掲載しますので、練習してみてくださいね。



今日のポイント:
標準偏差には、「食塩水の法則」は当てはまらない。ポートフォリオの標準偏差を求めるには、分散公式を使わなければならない。



>> 平均分散分析(5)リスク・リターン・フロンティア1 「証券が2個の場合」


練習問題:
株式 X のリターンの標準偏差は10%、株式 Y のリターンの標準偏差は20%であるとする。いま、2つの株を3:7で含めたポートフォリオを考える。

問1:
XY のリターンが完全な正の相関(\rho=1)を持つとき、ポートフォリオのリターンの標準偏差はいくつか。

問2:
XY のリターンが無相関(\rho=0)であるとき、ポートフォリオのリターンの標準偏差はいくつか。



答え:

問1:\rho=1 のときだけは「食塩水の法則」が成立する。(証明:\rho=1 のとき上記の分散公式は

    \begin{eqnarray*}\sigma_P^2 &=& w_1^2\sigma_1^2 +2w_1 w_2\sigma_1\sigma_2 + w_2^2\sigma_2^2\\&=& (w_1\sigma_1 + w_2\sigma_2)^2\end{eqnarray*}


となるので、 \sigma_P = w_1\sigma_1 + w_2\sigma_2 となり、\sigma_P\sigma_1\sigma_2 の加重平均となる。)
\sigma_1=10\%\sigma_2=20\%w_1=0.3w_2=0.7 より、\sigma_P=17%が答えである。


問2:この場合は、分散投資効果が働き、17%よりも小さくなる。無相関ということは、分散公式において共分散の項がゼロになる。

よって分散は \sigma_P^2 = 0.3^2 10^2 + 0.7^2 20^2=205 より、標準偏差は\sigma_P=14.3% である。