目次へ

>> 1011

リスク・リターン・フロンティア1 「証券が2個の場合」


今日のテーマは、ポートフォリオ・ウェイトを変えたとき、ポートフォリオのリスクとリターンがどのように変化するか、という問いです。


前回に引き続き、株式の銘柄が2つしかない状況を考えてください。トヨタの株が証券1、マクドナルドの株が証券2です。それぞれの期待リターンは \mu_1\mu_2 で,標準偏差は \sigma_1\sigma_2 で表します。最後に、2つのリターンの相関係数は \rho で表します。これらの情報は全て与えられていると仮定します。


2つの株のポートフォリオを考えます。ウェイトの和は1なので、トヨタのウェイトを w とおいて、マクドナルドの方は 1-w とおきます。そうすると、第3回の議論から、ポートフォリオのリターンの期待値は 

    \begin{eqnarray*}\mu_P = w\mu_1 + (1-w)\mu_2\end{eqnarray*}


分散は、前回の議論より

    \begin{eqnarray*}\sigma^2_P = w^2\sigma_1^2 + 2w(1-w) \sigma_1\sigma_2 \rho + (1-w)^2\sigma^2_2\end{eqnarray*}


となります。


たくさん文字が出てきますが、投資家が決められるのは w だけです。個別株の情報(\mu_1\mu_2\sigma_1\sigma_2\rho)はマーケットの状況で既に決まっています。例えば、投資マネージャーが、\mu_1=10\%\mu_2 = 15\%\sigma_1=20\%\sigma_2=25\%\rho=0.3 と推定しているとしましょう。すると

    \begin{eqnarray*}\mu_P &=& (10\%)w + (15\%)(1-w)\\\\\sigma^2_P &=& (20\%)^2w^2 + 2(20\%)(25\%)(0.3)w(1-w) + (25\%)^2(1-w)^2\end{eqnarray*}


となり、w を決めると、ポートフォリオのリターンの期待値と分散が決まることが見て取れます。


そこで、縦軸にポートフォリオのリターンの期待値、横軸に標準偏差(分散のルートを取ったもの)を取り、w の値を変えながら図示してみます。すると、次のような二次曲線が浮かび上がります。




証券1(トヨタ)は (\sigma_1, \mu_1)=(10\%, 20\%),証券2(マクドナルド)は (\sigma_2, \mu_2)=(15\%, 25\%) でした。この2つの点は、図の中では赤い点で表されており、それぞれ w=1w=0 に対応します。w は証券1のウェイトなので、これがマイナスの場合は、証券1を空売りして得た現金でさらに証券2を買い足していることを意味します。


注意して欲しいのは標準偏差の方です。証券1は20%、証券2は25%ですが、それならば証券1に全額投資したときが標準偏差が最小になるかというと、そうではありません。このグラフの中には、「相関が0.3」という情報が現れていないので忘れがちですが、前回の内容を思い出してください。2つの証券のリターンが完全相関していない場合なので、両方に分けて投資することで、「分散投資効果」が働くのです。


この例では w=0.7 の点でリターンの標準偏差は最小になっていることが分かります。(微分を知っている人は、最小値を達成する w を微分で求めてみてください。)その点から右上に行くほど、高リスク・高リターンのポートフォリオということになります。


ここまで、まずは証券が2種類しかない場合を考えました。次回からは、株式がn種類ある場合のポートフォリオを考えてみましょう。

>> 平均分散分析(6)ポートフォリオのリターンの期待値2 「証券がn個の場合」