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<<前提知識>>
ポートフォリオ基本用語1〜4

イントロダクション

大学で株式投資論を勉強すると出てくる、有名な理論が2つあります。ハリー・マーコウィッツの「平均分散分析」と、ウィリアム・シャープの「CAPM(キャップ・エム)」です。株式投資をサイエンスの域にまで高めたマーコウィッツとシャープは、「ファイナンス理論」の重要な先駆者です。二人は1990年にノーベル経済学賞を受賞しました。


株式は、東京証券取引所の1部に上場されている銘柄だけでも2000以上あります。その中には、価格の変動が激しい銘柄もあれば、安定して控えめな収益をあげる銘柄もあります。そのような様々な銘柄が存在するとき、投資家はいったいどのようなポートフォリオを作ればいいのでしょうか。マーコウィッツの「平均分散分析 (Mean-variance analysis)」は、この問いに対する数学的な答えを示した最初の理論でした。


それがどんな理論なのか、「平均分散分析」という名前の中にヒントがあります。まず、「平均分散分析」の「平均」とは、ポートフォリオのリターンの「期待値」のことです。リターンの期待値は高い方がありがたいですね。


一方、「平均分散分析」の「分散」は、ポートフォリオのリターンの分散のことです。ポートフォリオのリターンは、期待通りになるとは限らず、実際には期待値をうんと上回ったり、うんと下回ったりします。その不確かさを表すのが「分散」です。分散はできるだけ小さい方がありがたいものです。マーコウィッツは、「分散=ポートフォリオのリスク」と考えました。


「ハイ・リスク、ハイ・リターン」という言葉がありますが、マーコウィッツの「平均分散分析」の平均と分散は、それぞれ期待リターンとリスクを指しています。「平均分散分析」を用いれば、投資家は自分の好みに合わせて、ポートフォリオの期待リターンとリスクのバランスを取ることができるのです。その具体的な方法を、以下のステップで勉強していきましょう。

学習の流れ

ポートフォリオを選ぶための前提として、個々の証券の情報が必要です。「トヨタの株」や「マクドナルドの株」の情報がなければ、それらをどう組み合わせるべきかを論じることはできません。そこで、第1,2回では、個々の証券の期待リターンやリスクといった情報が、どのように表現されるかを説明します。


「個々の証券の期待リターンやリスク」を所与として、投資家はポートフォリオを作ります。このとき、「ポートフォリオの期待リターンや分散」はどうなるでしょうか。統計学の知識を応用し、ポートフォリオの期待リターンの求め方、つづいて分散の求め方を解説します(第3,4,6,7回)。


それらの求め方を理解したら、高リスク・高リターンのポートフォリオから低リスク・低リターンのポートフォリオまで、様々なポートフォリオを作ってみます。様々なポートフォリオのリスクとリターンを図示することで、投資家の選択肢を「見える化」することにしましょう(第5,8回)。


最後に、どんなポートフォリオを選ぶべきかという投資家の問題を考えます。最適なポートフォリオを作るという投資家の問題を図解し、数学的に定式化します(第9,10回)。そして、それをエクセルのソルバーを用いて解きます(第11回)。これで投資家の問題はひとまず決着ということになります。


少し長い道のりに見えますが、1つ1つのブロックを丁寧に積み上げていけば、必ず理解できます。そして、この「平均分散分析」は、シャープのCAPM理論に続いていくのです。さあ、それでは始めましょう。

>> マーコウィッツの平均分散分析(1)個別株の期待リターン