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不確実性は単純に足し算できない


今回から、確率変数の「和の分散公式」の勉強です。まずは、公式を出す前に、なぜこれを勉強する必要があるのかを、日常的な例で説明します。


あなたがビールの屋台とアイスクリームの屋台を運営しているとします。お祭り当日の気温が高めならビールもアイスクリームもたくさん売れますが、肌寒い日だと、どちらも売れゆきはイマイチであるとします。また、ビール屋の売上げの期待値は10万円で、アイスクリーム屋の売上げの期待値も10万円であるとします。


このとき、両方のお店の売上げ合計の期待値は 10+10=20 万円です。期待値に関しては、このような単純な足し算が成り立ちます。より一般的には、あなたの経営するビールの屋台の売上げを X、アイスクリームの屋台の売上げをYとすると、期待値に関しては E[X+Y] = E[X] + E[Y] が成立します。


ではリスクはどうでしょうか。ここで「リスク」とは、具体的には分散や標準偏差を念頭に置いていますが、さしあたり漠然とした「不確かさ」のイメージで構いません。ビール屋とアイスクリーム屋の両方を開いたときのリスクは、ビール屋のリスクとアイスクリーム屋のリスクの足し算でしょうか。結論を先に言えば、単純な足し算にはなりません。


このことを理解するには、「ビールの屋台&アイスクリームの屋台」という組み合わせを、別の商いの組み合わせと比較してみればいいです。ビールの屋台とアイスクリームの屋台は、暑ければ両方売れ、寒ければどちらも売れないという意味で、ほとんど運命を共にしています。2つのビジネスを掛け持ちしたからといって、「一方が失敗しても、もう一方は大丈夫だろう」という保険的なメリットはありません。


でも、あなたの営むビジネスが「輸出業」と「輸入業」だったらどうでしょうか。円高になったら輸出に不利で、輸入には有利です。逆に円安になったら輸出に有利で、輸入には不利。


だから、2つのビジネスの売上げの合計を考えた時には、業績の一部が相殺されるはずです。言い換えれば、輸出業と輸入業は、お互いがお互いの保険になるという面があります。これは、ビール屋とアイスクリーム屋が運命共同体であるのとは対照的です。


このように、2つのビジネスを営んだ時のリスクは、2つのビジネスの相関関係にも依ってくるのです。ですから、リスクには単純な足し算が当てはまりません。次回はこのことを式で表した、確率変数の「和の分散公式」を紹介します。

>> 和の分散公式(2)X+Yの分散の公式