目次へ

10111213補1補2補3

「ジョブを見つける確率」と「ジョブが埋まる確率」


今回は2つの確率を定義し、サーチ・モデルの連立方程式の2~4番目の式を導出します。


失業者が1期間のあいだに就業できる確率を p と置きます。例えば、もし100人のうち40人がジョブを見つけられるなら p は0.4です。p は「ジョブを見つける確率 (Job-finding probability)」と呼ばれます。


一方、欠員状態のジョブ(求人中のジョブ)が1期間のあいだに労働者とマッチできる確率を q と置きます。もし100個のジョブのうち、20個が労働者とマッチできるなら、q は0.2です。q は「ジョブが埋まる確率 (Job-filling probability)」と呼ばれます。


今回は、この pq を、前回紹介したマッチング関数から導出します。マッチング関数の仮定により、失業者の数が u,求人中のジョブの数が v のとき、1期間中にマッチする労働者とジョブのペアの数は M(u, v) です。このとき「ジョブを見つける確率」 p はいくつでしょうか。


失業者 u 人のうち M(u, v) 人がジョブとマッチするので、マッチできる人の割合である M(u, v)/u が「ジョブを見つける確率」です。シミュレーションのためには M(u, v) を具体的に仮定する必要があるので、マクロ経済学でよく用いられるコブ・ダグラス型関数(M(u,v)=z u^{1-\alpha} v^{\alpha})を使うことにします。そうすると、

    \begin{eqnarray*}p &=& M(u,v)/u \\\\&=& \frac{z u^{1-\alpha} v^{\alpha}}{u}\\\\&=& z  \left(\frac{v}{u}\right)^\alpha\end{eqnarray*}


となります。


次に、「ジョブが埋まる確率」q を考えましょう。v 個のジョブのうち、M(u,v) がマッチするわけですから、ジョブが埋まる確率は M(u,v)/v です。コブ・ダグラス型のマッチング関数の場合には

    \begin{eqnarray*}q &=& M(u,v)/v \\\\&=& \frac{z u^{1-\alpha} v^{\alpha}}{v}\\\\&=& z  \left(\frac{v}{u}\right)^{\alpha-1}\end{eqnarray*}


となります。


「ジョブを見つける確率」も「ジョブが埋まる確率」も、v/u の関数となっています。v/u は求人数を求職者数で割ったもので、有効求人倍率(=求職者ひとりあたり何件の求人があるか)に相当します。0<\alpha <1 なので、pv/u の増加関数、qv/u の減少関数です。有効求人倍率が上がると、労働者の方はジョブを見つけやすくなりますが、企業の方は人を見つけにくくなるというわけです。これは私たちの直観と合致しており、マッチング関数は現実をうまくモデル化していると言えます。


有効求人倍率 v/u を改めて \theta と置くことにしましょう。すると

    \begin{eqnarray*}\theta &=& v/u\\p &=& z \theta^\alpha\\q &=& z \theta^{\alpha-1}\end{eqnarray*}


となります。これがイントロで示した10本の式のうちの3本です。


次回は「労働者の生涯所得」と「ジョブの現在価値」を考えます。

>> 労働市場論(サーチ・モデル)(7)「労働者の生涯所得」と「ジョブの現在価値」