1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,補1,補2,補3
失業率の変遷式
前回の舞台設定を踏まえ、これからサーチ・モデルの方程式を1つずつ解説します。今回は1本目、「失業率の変遷式」と呼ばれる式です。
時間が 1,2,3, と流れていきます。前回も述べたように、(就業者と失業者を合わせた)労働者の人口を1に基準化します。そして、 時点での失業者の数を とおきます( はunemployedの頭文字)。すなわち
失業者の数:
就業者の数:
です。労働者人口を1とすると便利なのは、 が失業者数と失業率の両方を表せることです。例えば人口が1万人で、なら、失業者数は0.05万人で、失業率はです。(就業者数は0.95万人、就業率は0.95となります。)
時点 で起こることは以下の通りです。まず、 人の失業者たちは、それぞれ確率 でジョブを見つけて就業者となるか、確率 で見つけられないかです。したがって、失業者の中でジョブを見つけられない人の数の期待値は ということになります。
一方、 人の就業者たちは、それぞれ確率 でジョブを失うか、確率 でジョブを維持するかです。よって、ジョブを失う人の数の期待値は 人です。
両者を合計します。というのも、次期 時点の失業者の数 は、「前から失業している人たち」と「 時点でジョブを失ってしまった人たち」の和なので、期待値では
が成り立ちます。これが失業者数や失業率の変遷を記述した式です。(*注)
最後に、定常状態における失業率を求めましょう。定常状態 (steady state) とは、「今期がこの値なら、次期もその値にとどまる」という値のことです。失業率は、いずれ定常状態に落ち着きます。
定常状態の失業率を と置きましょう。「今期がこの値なら、次期もその値」ということなので、 と の双方に を代入すれば、定常状態の失業率は
という式を満たすことが分かります。これがサーチ・モデルの連立方程式の1つめの式です。少し変形すると、 です。ここで、 はジョブを見つける確率、はジョブを失う確率ですから、前者が相対的に大きければ、定常状態での失業率は低くなると分かります。
次の式を説明するための準備として、次回は「マッチング関数」を説明します。
>> 労働市場論(サーチ・モデル)(5)マッチング関数
(*注)本来この式は期待値を表した式です。実際の人数は期待値通りになるとは限りませんが、マクロ経済学のモデルでは、「人間がたくさんいる」という “連続主体の仮定” というのを置いて、実際の人数も期待値通りになるとみなします。