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行列の転置


行列の転置 (Transpose) とは、行列の縦横をひっくり返すことです。例えば

    \begin{eqnarray*} A= \left( \begin{array}{cc}  1& 2\\  3 & 4\\  5 & 6 \end{array} \right)  \end{eqnarray*}


であるとき、A の「転置行列」は A^{\prime} または A^t と表し、これは単に

    \begin{eqnarray*} A^t &=& \left( \begin{array}{cc}  1& 2\\  3 & 4\\  5 & 6 \end{array} \right)^t\\\\&=&  \left( \begin{array}{ccc}  1& 3 & 5\\  2 & 4 & 6 \end{array} \right)  \end{eqnarray*}


を意味します。t は transpose の頭文字です。転置によって、縦に1, 3, 5となっていたものが、横に1, 3, 5 となります。数学らしい一般的な言い方をすれば、元々の 第(i,j) 成分が、第 (j,i) 成分となるのです。


転置によって、横ベクトルは縦ベクトルに、縦ベクトルは横ベクトルになります。文章中では、x = \left( \begin{array}{c}  10\\ 20 \\ 30 \end{array} \right) などと書くと行間が開き過ぎる原因となるので、転置記号の t を用いて x = (10, 20, 30)^t とか、x^t = (10, 20, 30) などと書きます。どちらも、x が縦ベクトルであることを表しています。


エクセルで行列を転置するときに使うのは、TRANSPOSE 関数です。転置したい行列の範囲を指定します。




これも行列関数なので、確定のときは Ctrl + Shift + Enter を同時に押してください。




行列の転置は縦横を逆転するだけで、これ自体は大したことはありません。しかし、行列のかけ算との兼ね合いで、大事な定理が1つあります。それは


    \begin{eqnarray*} (AB)^t = B^t A^t \end{eqnarray*}



    \begin{eqnarray*} (ABC)^t = C^t B^t A^t \end{eqnarray*}


というふうに、行列の積を計算してから転置したものと、それぞれの行列を転置したものを逆順にかけ算したものが、同じになるという定理です。(証明へ)


具体例を1つ見てみましょう。

    \begin{eqnarray*} U &=& \left( \begin{array}{cc}  1& 10\\  100 & 1000  \end{array} \right)\\\\ V &=& \left( \begin{array}{cc}  1& 2 \\  3 & 4 \end{array} \right)  \end{eqnarray*}


のとき、

    \begin{eqnarray*} UV &=& \left( \begin{array}{cc}  1& 10\\  100 & 1000  \end{array} \right)\left( \begin{array}{cc}  1& 2 \\  3 & 4 \end{array} \right) \\\\ &=&  \left( \begin{array}{cc}  1\times 1 + 10 \times 3 & 1 \times 2 + 10 \times 4 \\  100\times 1 + 1000 \times 3 & 100 \times 2 + 1000 \times 4 \end{array} \right) \\\\ &=& \left( \begin{array}{cc}  31& 42\\  3100 & 4200  \end{array} \right)  \end{eqnarray*}


ですから、

    \begin{eqnarray*} (UV)^t &=&  \left( \begin{array}{cc}  31& 42\\  3100 & 4200  \end{array} \right)^t \\\\ &=&  \left( \begin{array}{cc}  31& 3100 \\ 42 & 4200  \end{array} \right) \end{eqnarray*}


です。一方、V^t U^t を計算してみると

    \begin{eqnarray*} V^t U^t &=&\left( \begin{array}{cc}  1& 2 \\  3 & 4 \end{array} \right)^t  \left( \begin{array}{cc}  1& 10\\  100 & 1000  \end{array} \right)^t \\ \\&=&  \left( \begin{array}{cc}  1& 3 \\  2 & 4 \end{array} \right)  \left( \begin{array}{cc}  1& 100\\  10 & 1000  \end{array} \right) \\ \\&=& \left( \begin{array}{cc}  1\times 1 + 3 \times 10 & 1 \times 100 + 3 \times 1000 \\  2\times 1 + 4 \times 10 & 2 \times 100 + 4 \times 1000 \end{array} \right) \\ \\&=& \left( \begin{array}{cc}  31& 3100 \\  42 & 4200 \end{array} \right) \end{eqnarray*}


ですから、(UV)^t = V^t U^t となりました。


次回は「単位行列」という特別な行列を紹介します。

>> 行列の基本(10)単位行列

定理の証明:(戻る

(AB)^t = B^t A^t を証明するには、
(AB)^t の第 (i,j) 成分 = B^t A^t の第 (i,j) 成分」
となることを証明する。

(AB)^t の 第 (i,j) 成分
ABの 第 (j,i) 成分
A の第 j行 と B の第 i 列の内積

である。一方、

B^tA^t の第 (i,j) 成分
B^t の第 i 行と A^t の第 j 列の内積
B の第 i 列と A の第 j 行の内積

よって両者は等しいことを確かめられた。

2つの行列で成り立つならば、帰納的に3つ以上でも成立することが証明できる。すなわち、
(ABC)^t = C^t (AB)^t = C^t B^t A^t