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タダ乗りゲームの場合1(“2人のうち1人”)


今回から、「タダ乗りゲーム」の混合戦略均衡を勉強します。初回の今日は、プレーヤーが2人の場合です。


ユーリーは今朝、ルームメイトの一郎と一緒に大学に登校しました。1時間目の授業中に火災報知器が誤作動で鳴り、ユーリーはふと家のストーブを消し忘れてきたことに気づきます。同じ校舎のどこかで授業を受けている一郎も、今ので気づいたことでしょう。2人のうちどちらかが家に戻ってストーブを消さなければなりませんが、自分が行くか、ルームメイトを当てにするか、迷うところです。(連絡を取り合う手段はないということにします。)


「責任感のある方が行動し、もう一方は人任せ」というのも起こりそうな状況ですが、今回は、それぞれが家に戻るかどうかをランダムに決める「混合戦略均衡」を求めましょう。


確率を理論的に求めるためには、正確な利得が必要です。まず、誰がやるかに関わらず、ストーブが消されれば嬉しさは1、消されなければ嬉しさは0とします(これは単なる「基準化」なので、「1」の単位は何でも構いません)。加えて、行動した人はコスト c(ただし 0<c<1)をこうむるとします。この c は、家に戻るのがどれくらい面倒臭いかを表します。


以上をまとめると利得は、「相手が行動し、自分はタダ乗り」の場合が最も高くて1,「自分が行動した場合」は相手の行動に関わらず 1-c,「誰も行動しない場合」は0となります。今回のコストは c=0.1 とします。


それでは混合戦略均衡を求めましょう。一郎が行動する(つまり家に戻ってストーブを消してくる)確率 p を、ユーリーの無差別性の条件から求めます。一郎が行動する確率 p は、ユーリーが行動するかどうか迷うような確率です。ユーリーが行動しないで得られる利得は、一郎が行動してくれれば 1,してくれなければ 0 なので、期待値では 1p+0(1-p) です。行動した場合の利得は、一郎の行動に関わらず 0.9 です。両者が等しいということで、p=0.9 と求まります。つまり、「一郎が確率 0.9 で行動し、確率0.1で行動しない」とき、ユーリーにとっても行動するのとしないのとが、ちょうど無差別です。


立場を入れ替えても同じロジックが成り立つので、「一郎もユーリーも、それぞれ確率 0.9 で家に戻ってストーブを消してくる」というのが、このゲームの混合戦略均衡です。(この確率は、家に戻ることの面倒臭さの度合いによって変わります。)


以上のように、均衡を求めるためには、個々のプレーヤーの立場になって考えます。でも、いったん均衡が求まったら、プレーヤーたちを一段高いところから眺めます。ユーリーと一郎がそれぞれ0.9の確率で行動するとしたら、結局目的が達成される確率はいくつでしょうか。


それにはまず、どちらも行動しない確率を求めます。どちらも行動しない確率は 0.1^2 = 0.01,つまり1%です。したがって、少なくともどちらかが行動する確率は99%ということになります。ストーブの火が消される確率は99%、消されない確率は1%です。


さあ、ここから話を少しずつ複雑にしていきましょう。次回はプレーヤーが3人いる場合のタダ乗りゲームで、混合戦略均衡を求める練習です。

>> 混合戦略(8)タダ乗りゲームの場合2(“3人のうち1人”)