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>> 1011

マッチング・ペニーの場合1

前回は「混合戦略」とは何かを説明しました。じゃんけんで、「グー・チョキ・パーを3分の1ずつの確率で出す」というのはその一例です。


じゃんけんにおいて、ふたりが互いに「3つの手を等確率で出す」という戦略を採っている状態は、ゲーム理論が「混合戦略均衡(Mixed strategy equilibrium)」と呼ぶ状態の一例です。各人が、自分にとって「最良かつ無差別」な選択肢だけを混ぜた混合戦略をとっている状態のことです。一方的に戦略を変えても、勝率が上がるとか、得するとかいうことはありません。


この「混合戦略均衡」を、じゃんけん以外の例で見つけてみましょう。以下は一種のマッチング・ペニーです。A君とBさん、それぞれが1枚ずつコインを持っています。二人同時にコインを机の上に置き、2つのコインの表裏が合えばA君の勝ち、表裏が異なればBさんの勝ちです。A君は合わせたい、Bさんは合わせたくないということなので、A君を「追う側」、Bさんを「逃げる側」と呼ぶことができます。


例えば、勝った方は1千円もらえ、負けた方は何ももらえないという方式にしてみましょう。このときの混合戦略均衡は、A君もBさんも「おもてと裏を半々の確率で出す」というものです。これを正式に証明するには、いったい何を確かめればよいでしょうか。少し考えてみてください。


証明するには、おもてを出すことと裏を出すことが、ふたりにとって無差別であることを示さなければなりません。すなわち、

  1. (もしA君が「おもてと裏半々」で来るなら)Bさんにとっておもてと裏は無差別
  2. (もしBさんが「おもてと裏半々」で来るなら)A君にとっておもてと裏は無差別


の2つを確かめる必要があります。


まずは追う側のA君がおもてと裏を半々で出すとし、逃げる側のBさんの立場になって考えましょう。Bさんはこう考えます。もし自分がおもてを出せば、A君が裏を出したときだけ1千円もらえます。50%の確率で1千円もらえるので、期待値では500円です。一方、自分が裏を出せば、A君がおもてを出したときだけ1千円もらえるので、やはり期待値は500円です。すなわち、Bさんにとって、おもてと裏は無差別となっています。(利得の期待値を「期待利得」と言います。)


A君の立場から見ても同じことが言えます。Bさんがおもてと裏半々の確率でくるなら、A君にとっては、おもてを出しても裏を出しても、期待利得は500円なので、A君にとっておもてと裏は無差別です。おもてを出すのも裏を出すのも「最良かつ無差別」だとお互いに思っているので、「二人とも、半々の確率で出す」は混合戦略均衡であることが確認できました。


今回の例では「おもてと裏を等確率で出す」というのが混合戦略均衡になりましたが、いつも「等確率」が使われるとはかぎりません。条件が変われば、「20%の確率でおもて、80%の確率で裏を出す」というような混合戦略が均衡になることもあります。次回はそのような場合を考えてみましょう。

>> 混合戦略(4)マッチング・ペニー2