目次へ

>> 1011

最良かつ無差別

ワタル君はレストランで、ハンバーグもエビフライも同じくらい食べたいとき、どちらを注文するか、まだ決まっていないうちに店員さんを呼びます。そして、店員さんに注文を聞かれたまさにその瞬間に「えいやっ」と、適当にどちらかを言います。


このように、2つ以上の選択肢からランダムに選ぶ戦略を、ゲーム理論で「混合戦略 (Mixed strategy)」といいます。ランダムにできるのは、ワタル君にとってハンバーグとエビフライがどちらも「最良」の選択肢であり、「どちらでもいい」と思っているからです。この「どちらでもいい」を経済学では「無差別 (indifferent)」と言います。無関心という意味ではなく、良し悪しの度合いが、その人にとってちょうど同じという意味です。


また、「最良 (best)」であるとは、ワタル君にとってそれよりも良い選択肢が無いということです。もしワタル君が、レバニラ定食とモツ煮定食を同じくらい嫌っていたとしたら、この2つも無差別です。でも、嫌いなものからランダムに選んでもしかたありません。ハンバーグとエビフライは「最良かつ無差別」な選択肢、つまり1位タイなのです。1位タイなら、コインを投げて決めても損はありませんね。


混合戦略は、じゃんけんでも使える戦略です。じゃんけんではグー、チョキ、パーの3つの選択肢があります。「グーを80%、チョキを20%の確率で出す」のように、確率をつかって複数の手を混ぜるのが混合戦略です。


しかし、じゃんけんでみんなが用いる混合戦略と言えば、やはり「3つを等確率で出す」というものでしょう。なぜ多くの人は、じゃんけんでグー、チョキ、パーを等確率で出すという混合戦略を採るのか、考えたことはありますか。次回はこの問いの答えを注意深く考察してみましょう。

>> 混合戦略(2)なぜランダムに出すのか