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コーディネーション・ゲームの場合1


じゃんけんやマッチング・ペニーでは、相手を出し抜こう、裏をかこうとして行動が定まらず、お互いにランダムに行動を選ぶ状態にしかなりません。ゲーム理論的な言い方をすれば、均衡状態が「混合戦略均衡」しかないのです。


コーディネーション・ゲームの場合はどうでしょうか。以前出てきた、父と子供が駅で待ち合わせをするゲームでは、ともに相手が北口に来るだろうと確信してそこへ行くことは、「うまく調整された状態」だと説明しました。一方で、お互いに相手が北口と南口のどっちに来るか、確信が持てずにランダムになってしまう状態もありえます。こちらが「混合戦略均衡」です。


今回は、コーディネーション・ゲームの一つである「スタグ・ハント」で混合戦略均衡を求めてみましょう。ストーリーはこうです。


小学校2年生のA君は、毎日飼い犬のアルフィを散歩につれていきます。ある日曜日、3キロ離れた公園までアルフィを散歩につれていったところ、かわいいワンピースを着てポメラニアンを連れたBさんと出会いました。Bさんも遠くに住んでいて、今日はたまたまその公園に来たのだといいます。二人はお喋りに夢中になり、気が付けば夕暮れ。来週の日曜日も会おうね、と約束して別れました。


A君は次の日曜日を心待ちにしていたのですが、その日は朝から本降りの雨。Bさんと会えるのなら3キロの道のりも苦ではありませんが、そうでないなら大人しく家でテレビでも見ていたいところです。実はBさんも全く同じ気持ちで、A君とは会いたいけれども、A君が来ないなら大雨の中遠出はしたくありません。


雨の中遠くの公園まで行くか、行かないか。この状況で、二人とも相手の行動が読めず、えいやっとランダムに決断する「混合戦略均衡」を求めてみましょう。


公園に行く確率を理論的に求めるためには、賞金に相当する「利得」を数字で与えなくてはなりません。そこで、A君、Bさんとも、「雨の中公園に行って相手に会えたときの嬉しさ」は1000円,「行ったけど会えなかったときの悲しさ」は-500円,「家でじっとしていることの嬉しさ」は0円であるとします。(もちろん、本当にお金をもらったり失ったりするわけではありません。それくらいの嬉しさや悲しさだということです。)


A君が公園に行く確率 p を求めましょう。A君の確率は、Bさんの無差別性の条件によって決まるのでしたね。A君が確率 p で公園に来るのなら、Bさんが公園に行くことの期待利得は 1000p+(-500)(1-p) 円です。確率 p でA君に会え、確率 1-p で出かけ損だからです。また、Bさんが家で大人しくしていることの期待利得は0円です。(こちらはA君が公園に来るかどうかは関係ありません。)


Bさんが公園に行くかどうか迷うということは、この2つの期待利得が等しいということですから、1000p+(-500)(1-p)=0 が成立しています。これを解くと p=1/3 ということになります。つまり、A君が公園に確率 1/3 で来るというとき、Bさんはちょうど、行くかどうか迷ってしまうのです。


立場を入れ替えても状況は同じです。A君が公園に行くかどうか迷うためには、Bさんが公園に来る確率はちょうど 1/3 でなければなりません。こうして、A君もBさんも確率 1/3 で公園に行く、というのが混合戦略均衡になります。


このゲームには均衡状態が3通りあります(均衡とは何かについては後で詳しく説明します)。それは「二人とも相手が100%公園に来ると信じて公園に行く」「二人とも、相手は絶対来ないと信じて家にいる」「二人とも、相手は1/3の確率で公園に来ると思いながら1/3の確率で公園に行く」の3つで、3つめが混合戦略均衡です。


次回はちょっと発展させて、プレーヤーが3人いる場合のコーディネーション・ゲームで、混合戦略均衡を考えてみましょう。

>> 混合戦略(6)コーディネーション・ゲームの場合2