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カラ脅しゲーム2.僕はやらないよ

今日勉強するのは、カラ脅しゲームのもう1つの典型例、「順番付きタダ乗りゲーム」です。以前勉強した「タダ乗りゲーム」では、自分がやるか他人をあてにするか、プレーヤーたちが一斉に決めました。順番付きタダ乗りゲームでは、一人ずつ順番に決めます。


例えばある議会の表決が、名前を呼ばれた議員から順番に賛成か反対かを宣言する方式だったとしましょう。議員は全部で10人で、過半数の6人の賛成で可決されるというルールです。今、「非現実的だが、おおっぴらに反対しにくい」と全員が思っている法案があるとします。みんな否決したいのですが、できれば他の人に反対票を投じてもらいたいと思っています。


みんな「私は賛成票を投じるぞ」と口では言うでしょうが、本当に可決されてしまっては一大事。このゲームで起こることは1つしかありません。最初の5人は賛成の札を提示していい格好をし、6人目以降は反対の札を提示して、法案はぎりぎり否決されるというのが理論的な結果です。最初の5人が安心して賛成票を投じられるのは、口ではなんと言おうと、後ろの5人がちゃんと否決してくれると分かっているからです。タレントショーで、一番最後に投票する審査員が最も厳しい審査をするのは、偶然ではありません。先に投票する審査員は、厳しい評価をあとあとの審査員に押し付けることができるのです。


ルームメイトどうしのゴミ捨てゲームを考えましょう。まずは早起きの一郎が、朝出かける前にゴミ捨てするかどうか決めます。ユーリーはそのあと起きてきて、ゴミが残っていたら捨てるかどうか決めます。2人とも、「ゴミ捨ては面倒臭いけど、誰かが捨てないと困る」と思っています。ゲーム理論の予測は、「一郎はゴミ捨てしない、ユーリーがゴミ捨てする」というものです。ユーリーがいくら「僕はゴミ捨てしないぞ」などとおどしても無駄です。一郎がゴミをそのままにしていけば、ユーリーがゴミを捨てるしかありません。公共財を供給するかどうかの選択は、順番があとの方が不利なのです。


基本4ゲームのところで紹介した衝突回避のゲームも、順番があると考えると予測が具体的になります。自転車で並走する中学生が道を開けるためには、3秒はかかります。一人で道を行くあなたが脇によけるのは1秒で済むでしょう。そう考えると、これは2ステージ・ゲームでもあるわけです。衝突3秒前に中学生が道をあけるかどうか決め、1秒前にあなたが決めます。あと1秒となったらあなたがよけますから、中学生がよける必要はありません。やるかどうかの最終決定は、やるのに時間がかかる人が先、身軽な人があとです。家事も仕事もグループ課題も、最後に何とかできる人がやることになります。


ゴミ捨てしたくないユーリーの話に戻りましょう。「僕はゴミを捨てないぞ」がカラ脅しだと思われないためにはどうしたらいいでしょうか。次回は動学ゲームの重要な概念である、「コミットメント」について説明します。

>> カラ脅しとカラ約束(4)コミットメント