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動学の基本2ゲーム

ジャンケンのように、プレーヤーが一斉に行動を決めるゲームを「同時手番ゲーム」と言います。これに対し、囲碁やBlockusのように、プレーヤーが順番に行動を決めるゲームは「動学ゲーム」と呼ばれます。今回から、この動学ゲームの勉強です。


とは言っても、囲碁やBlokusのように繰り返し順番が回ってくる動学ゲームは、少しレベルが高いので、まずは一人一回しか順番が回ってこない動学ゲームを勉強しましょう。例えばプレーヤーが2人であれば、まずAさんが行動を決める第1ステージがあり、それを見て今度はBさんが行動を決める第2ステージがあるだけの、2ステージ・ゲームです。Aさんの番は再び回ってきません。


この種の動学ゲームにはいくつか種類がありますが、大事な基本は2つしかありません。「カラ約束のゲーム」と「カラ脅しのゲーム」の2つです。日常で遭遇したとき、それと気づけるように訓練しましょう。初回の今日は、カラ約束とカラ脅しのゲームの例を、1つずつ紹介します。


カラ約束のゲーム

まずは「カラ約束のゲーム」です。勉強ぎらいの山田君は卒業に必要なファイナンスのゼミで落第点を取ってしまい、このままでは留年です。教授は、「このまま就職されると、うちの経済学部のブランドに傷がつく。可哀想だが、留年してしっかり勉強し直しなさい」と言います。そこで山田君が提案します。「先生、もしゼミの単位をくださったら、そのあと就職までの2ヶ月間みっちり勉強します。」


さあ、ここから2ステージ・ゲームが始まります。まず第1ステージで教授が単位をあげるかどうか決め、そのあと第2ステージで、山田くんがみっちり勉強するかどうか決める、というゲームです。ゲーム理論の予測は、「教授は単位をあげない。もし単位をあげたとしても、そのあと山田君はみっちり勉強しない」です。この場合、「単位をくれれば勉強する」がカラ約束となります。山田くんが内心「単位をもらっても勉強はしないぜ」と思っているか、真剣に「単位のためなら何でもする!」と思っているかは、ゲーム理論にとっては重要ではありません。いったん単位をもらったら、山田君に勉強するインセンティブ(動機)はないということが重要です。


カラ脅しのゲーム

次は「カラ脅しのゲーム」の例です。恋愛映画で男性が、自分を捨てた女性に復縁を迫るシーンを想像してください。イメージしやすいよう、女性の名前はカルメン、男性の名前はホセとしておきましょう。ホセがカルメンにこう言います、「俺と別れるというなら死んでやる」。さて、ここからが2ステージ・ゲームです。まず第1ステージで、カルメンがホセと復縁するか、ホセの元を去るか、どちらか一方を選びます。カルメンがホセの元を去った場合は、今度はホセの番です。ホセは宣言したとおり自らの命を断つか、命は断たずに行きつけの酒場で親友と飲みまくるか、どちらか一方を選びます。


ゲーム理論の予測は何だと思いますか。自分のせいで死なれては困ると、カルメンがホセと復縁する、というのは正解ではありません。カルメンはホセの元を去り、ホセは生き延びるというのがゲーム理論の予測です。カルメンが去るのは、ホセが生き延びると分かっているからです。この例では、「別れたら死ぬ」がカラ脅しです。


カラ約束とカラ脅しの漠然としたイメージはできましたか。この2つが経済学的な興味の対象となるのはなぜでしょうか。まずはカラ脅しのゲームから、しっかり見ていくことにします。

>> カラ脅しとカラ約束(2)困っても知らないよ

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