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<< ゲーム理論入門(3)基本4ゲーム



基本4ゲームのトップバッターは「タダ乗り問題 (Free-rider problem)」です。


あなたはルームメイトと二人で1つのアパルトマンに住んでいます。キッチンにはゴミ箱があり、収集日にはゴミを捨てる必要があります。ルームメイトがゴミ捨てをやってくれれば、あなたはする必要がありません。逆に、ルームメイトが「やるやる」と言ってなかなかやらなければ、結局あなたがゴミ捨てすることになるでしょう。お互いに、相手がやってくれたらいいなと思っていますが、相手がやらないなら、仕方なく自分がやります。次のゴミ収集日まで生ゴミが溢れているのは悲惨ですから。


「ゴミ捨て」のように、お互いの便益になるものを経済学では「公共財 (public goods)」と言います。そして、自分は労力を払わずに、他人が提供する公共財の恩恵を得ることを、経済学では「フリーライド(タダ乗り)する」と言います。あなたとルームメイトはそれぞれ、「ゴミ捨て」という公共サービスを提供するか、相手が提供してくれるのをあてにして放っておくか、どちらか一方を決めます。これがゲーム理論のタダ乗り問題です。


タダ乗り問題の定義は、
「1番いいのは相手がやってくれて、自分はやらないこと」
「2番目にいいのは、面倒でも自分がやること」
「最悪なのは誰もやらないこと」
とお互いに思っていることです。だから「相手にやってもらうのは気がひける」とか「やらなかったら怒鳴られる」と思っている場合は、タダ乗り問題ではありません。


起こりそうなゲームの結果は2つあります。あなたがゴミ捨てをして、ルームメイトはタダ乗りする。あるいはルームメイトがゴミ捨てをして、あなたがタダ乗りする。二人ともゴミを放っておくとか、二人とも捨てるということは起こりにくいと考えられます。


さて、前に話した、狭い歩道をあなたと対向者が通り過ぎる状況。これもタダ乗りゲームであることに気づくでしょうか。あなたも相手も、「正面衝突はしたくないが、できることなら相手に譲って欲しい」と思っているのでしたね。この場合の「公共財」は何でしょうか。それは「正面衝突を回避するために道を譲る行為」です。一方の人が衝突を回避してくれれば、両者とも恩恵を受けられるからです。

チキン・ゲーム

二人がお互いに向かって突き進んでいて、それぞれ衝突回避するかどうか決めるという設定は、「チキン・ゲーム」と呼ばれることもあります。チキン・ゲームの本来のストーリーはこうです。2つの暴走族のリーダーどうしが、直線道路を利用して決闘します。スタートの合図とともにお互いに向かって全速力で車を走らせ、怖くなったらハンドルを右に切る。ハンドルを切ったリーダーは「チキン(臆病者)」のレッテルを貼られ、最後までハンドルを切らなかったリーダーは勇敢さを讃えられる。2人とも勇敢過ぎてハンドルを切らなければ、正面衝突する。衝突は嫌だけど、できれば相手に避けてもらいたい。狭い歩道を自転車ですれ違う、例の話と似たような状況ですね。


ではチキン・ゲームに臨むリーダーに必勝法はあるのでしょうか。ハンドルが効かない振りをするとか、相手の目の前でハンドルを窓から投げ捨てるとかが知られています。ちょっとズルいですが、確かに相手がそんなことをしたら、こちらがよけるしかないですね。


このアドバイスによれば、自転車で行くあなたは、「脇見運転していて対向して来る中学生たちに全く気づかないふり」をすれば、相手の中学生は慌てて並走をやめて道を開けることになります。でも、そういうアドバイスは、誰かにだけこっそり教える分には役に立つかも知れませんが、みんなに教えたら役立ちません。みんながハンドルを投げ捨てたり、脇見運転のフリをしたりしたら、大変なことになります。これが前に、「ゲーム理論の主な目的は、どうするのが得かをアドバイスすることではない」と言った理由です。ファイナンス理論が「どの株を買えば儲かるか」を教えるのが目的でなかったり、経営学が「どうすれば他の企業を出し抜けるか」を教えるのが目的でないのと似ています。ゲーム理論の主な目標は、プレーヤーたちを一段上から眺めて、どんな結果になるのかを予想することなのです。


チキンゲームや自転車のすれ違いゲームに関して、ゲーム理論の最もシンプルな予想は、「結局最後はどちらか一方が衝突を回避する」というものです。実は、どちらが譲歩するかはうまく予想できません。直観的には、並走する中学生よりも、一人で進むあなたの方が高い確率で道を譲りそうですが、シミュレーションではあべこべの結果になってしまったりします。


もっと複雑な理論ではうまく説明できるかも知れませんが、私たちはタダ乗りゲームに関してはここでひとまずストップし、2つ目の基本ゲームに進むことにしましょう。

>> 囚人のジレンマ(1)抜けがけの色々な例