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アローの不可能性定理

国や企業は、さまざまな選好を持つ人々のグループとみなせます。グループとしての選好は、どのように決めるべきなのでしょうか。「コンドルセの方法」はいつも「一貫性のあるグループの選好」になるとは限りません。「ボルダ・カウント」は「無関係な選択肢からの独立」を満たしません。「固定順序」は「パレート性」を満たしません。どの方法も一長一短です。


こうなったら誰か一人、例えば最年長者の言うことに常に従うというのはどうでしょう。最年長者が「ラーメンよりカレー」と言ったらカレーにすると言った具合に、「グループの選好=ある特定の人の選好」とするのです。この方法なら、堂々巡りも、嘘をつくことによる結果の操作もないでしょう。でもこの方法は「独裁」に他なりません。特別な1人以外の選好は、常に無視されることになります。


理想的な意思決定ルールは無いものか、その問いに対する1つの答えが「アローの不可能性定理 (Arrow’s Impossibility Theorem)」です。


アローの不可能性定理
グループに人が2人以上、選択肢が3つ以上あるとする。このとき、「パレート性」と「無関係な選択肢からの独立」を満たし、「独裁でない」方法で、「常に一貫性のある選好」をもたらすグループの意思決定の方法は、存在しない。




この定理を証明したのは、20世紀屈指の経済学者ケネス・アローです。彼はこの定理も評価されて1972年にノーベル経済学賞を受賞しました。しかしこれは、民主主義にとっては手厳しい定理です。「完璧な政治システムなんて存在しない」などとアバウトに片付けられる話ではありません。「カエサルとナポレオンが、カレーとラーメンと蕎麦を順位づけする」というたったそれだけのことでも、「パレート性」「無関係な選択肢からの独立」「独裁でない」「一貫性のあるグループ選好」の4つ全てを同時にクリアーする方法は無いのです。これは数学的に証明される定理なので、頑張って探しても、そのような方法は見つかりません。


ただ、悲観的になり過ぎる必要はないかもしれません。4つの基準は、あくまで理想であって、「集団にとって良い方法」の、必要条件でも十分条件でもないからです。アローの意味で完璧な方法は存在しないけれども、いろいろな方法の長所と短所を理解しながら、その集団に合った方法を選ぶことが求められます。少しでも良い方法を求めて、「Copeland の方法」「Keremy-Young の方法」「Schulze の方法」など、多くの方法が考案されています。


さて、これで「社会選択論」の入門は終わりです。社会選択論で次に教わるのは「ダウンズ・モデル (Downsian model)」や「中位投票者定理 (Median voter theorem)」でしょうか。これらについては、またの機会にお話ししたいと思います。