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全域想定


前回は、選好の異なるA君、B君、C君の3人が、カレーとラーメンで多数決を取り、ラーメンと蕎麦で多数決を取り、さらに、蕎麦とカレーで多数決を取りました。このように、選択肢の全てのペアに関して一騎打ちの多数決を取ることを「コンドルセの方法 (Cordorcet method)」と言います。コンドルセの方法の下では、集団の選好がジャンケンのような堂々巡りになってしまう状況が起こり得ます。これを「コンドルセのパラドックス」と言いました。


しかし、コンドルセのパラドックスは常に起こることではありません。前回の例は、3人の好みが全く異なるという極端な例でした。ためしにC君の選好の2位と3位を入れ替えて「ラーメン \succ 蕎麦 \succ カレー」とすれば、もうコンドルセのパラドックスは起こりません。蕎麦とカレーの多数決では蕎麦が勝ち、蕎麦とラーメンの多数決でも蕎麦が勝ちます。(このような選択肢を「コンドルセ勝者 (Condorcet winner)」と呼びます。)


メンバーの選好がある程度似通っていれば、コンドルセのパラドックスは起こりません。メンバーが3人で、選択肢も3つだと、3人の選好の組み合わせは216通りあるのですが、コンドルセのパラドックスが起こってしまうのはそのうちのたった12通りです。頻度としてはそれほど高くありません。


しかし、どんな状況でも集団としての意思決定ができるのでなければ、集団のルールとしては不完全です。この考え方を「全域想定 (Universal domain assumption)」と言います。個々人の選好がどんなものであったとしても、社会として1つの決定ができなければならない。あらゆる状況を想定していなければならない。そのような考え方です。


そうは言っても、全域想定を前提にルール作りをするのは、骨が折れることです。コンドルセのパラドックスがめったに起こらないことであれば、無駄な労力になりかねません。そこで次回は、コンドルセのパラドックスが実際どれくらい深刻なのかを考えたいと思います。

>> 社会選択論(4)コンドルセのパラドックスはどれくらい深刻か