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「固定順序」を修正して使えるか


「固定順序」の欠点は、パレート性を欠いたルールであることです。例えば「五十音順」では、カレーという選択肢はラーメンより五十音順で先に来るので、グループはカレーを優先します。メンバー間の意見対立を未然に防ぎますが、みんながラーメンの方が良いと思っているときでも、グループはカレーを選択するという変なことが起こり得ます。


そこで、「五十音順」を修正したらどうでしょうか。基本は五十音順にするけれども、みんなの意見が一致したときは、みんなの意見に従う、というふうに決めるのです。選択肢 XY を比べる際、もしメンバー全員が Y の方がいいと言ったらグループとしても Y \succ_g X とします(g はグループの意)。また、もしメンバー全員が XY も同じだと言ったら、グループとしても X \sim_g Y とします。意見が割れたときだけ、五十音順で先に来る選択肢を良しとする、というルールです。


この「修正版の五十音順ルール」なら、パレート性を満たします。また、各メンバーが XY 以外の選択肢のことをどう思っているか聞く必要がないので、「無関係な選択肢からの独立」も満たします。しかし、このルールは一貫性のあるグループ選好になりません。


たとえば aさんと bさんがいて、aさんは「ラーメン \succ_a カレー \succ_a 蕎麦」という選好で、bさんは「蕎麦 \succ_b ラーメン \succ_b カレー」という選好だとしましょう。二人ともラーメンがカレーより好きなので、groupとしても「ラーメン \succ_g カレー」です。カレーと蕎麦、あるいは蕎麦とラーメンを比べるときには、意見が割れているので、五十音順に従い、「カレー \succ_g 蕎麦」「蕎麦 \succ_g ラーメン」となります。するとどうでしょう。堂々巡りが起こってしまいます。このように、「修正版の五十音順」も完璧でないことが分かります。


グループの意思決定が一貫性を持たないのは困ります。理想的なルールはないものでしょうか。最終回のテーマはこの問いに対する答えです。

>> 社会選択論(11)アローの不完全性定理