練習問題
これまでの内容を理解するために、練習問題を解いてみましょう。以下の問題では数式は一切出てきませんが、定義に立ち返って厳密に考える論理的思考が要求されます。数学力を上げるため、しっかり練習してください。
問1(>> 解答)
「パレート性」の定義は何か。
問2(>> 解答)
「ボルダ・カウント」がパレート性を満たす方法であることを証明してください。
問3(>> 解答)
常にある特定のメンバーの選好に従う方法を「独裁」という。「独裁」がパレート性を満たすことを証明してください。
問4(>> 解答)
「無関係な選択肢からの独立」の定義は何か。
問5(>> 解答)
「独裁」というルールは、「無関係な選択肢からの独立」を満たすことを証明してください。
問6(>> 解答)
「五十音順」という固定順序は、「無関係な選択肢からの独立」を満たすことを説明してください。
問7(>> 解答)
「五十音順」という固定順序は、「パレート性」を満たさないことを、具体的な例を挙げて説明してください。
問8(>> 解答)
ボルダ・カウントが「無関係な選択肢からの独立」を満たさないことを、,, という3つの選択肢を持つ二人(AさんとBさん)の例で示してください。
どうでしたか。問題を解きながら、「〇〇って何だっけ?」と何度も分からなくなった人は、訓練になっている証拠です。必ず定義を頭に入れて、1つ1つ理詰めで考えてください。
次回は、「固定順序」を改善して使えるかどうかを考えます。
>> 社会選択論(10)「固定順序」を修正して使えるか
解答
問1 「パレート性」の定義は何か。
解答
メンバー全員が「BよりAが良い」と思っている場合、グループにとってもAの方が良い。また、メンバー全員が「AとBは無差別だ」という場合は、グループにとっても無差別。(本文に戻る)
問2 「ボルダ・カウント」がパレート性を満たす方法であることを証明してください。
解答
メンバー全員が「BよりAが良い」と思っているとする。このとき、メンバー全員がAを上位におくので、獲得ポイントはAの方が小さい。メンバー全員の点数を合計しても、やはりAの方が獲得ポイントが少ない。よって、ボルダ・カウントの下では、グループはAの方が良いと考える。したがって「メンバー全員が『BよりAが良い』と思っているとき、グループはAを優先する」ということなので、これはパレート性を満たしている。(本文に戻る)
問3 常にある特定のメンバーの選好に従う方法を「独裁」という。「独裁」がパレート性を満たすことを証明してください。
解答
メンバー全員が「BよりAが良い」と思っているとする。このとき、グループはBではなくAを選ぶことを確かめればよい。(パレート性の定義を参照。)
今、メンバー全員がBよりAの方が良いと思っているということだから、そのうちの一人である独裁者(名前をX氏とする)もAの方が良いと思っていることになる。X氏の独裁のもとでは、グループはAを選ぶ。よって示された。(本文に戻る)
問4 「無関係な選択肢からの独立」の定義は何か。
解答
グループにとって選択肢AとBのどちらがいいか、それとも無差別かを判断する際、各メンバーに聞いていいのは「AとBどちらがいいか、それとも無差別か」だけ。そのほかの選択肢が絡んでくることは一切聞かない。(本文に戻る)
問5 「独裁」というルールは、「無関係な選択肢からの独立」を満たすことを証明してください。
解答
グループにとってAかBかを選ぶ際、独裁のもとでは独裁者にAとBどちらがいいかを聞く。その他の選択肢をどう思っているかの情報はいらない。だから「独裁」は「無関係な選択肢からの独立」を満たす。(本文に戻る)
問6 「五十音順」という固定順序は、「無関係な選択肢からの独立」を満たすことを説明してください。
解答
五十音順ルールのもとでは、カレーがラーメンよりも五十音順で先だから、グループはカレーを選ぶ。カレーとラーメンのどちらがいいかを判断する際に、各メンバーにその他の選択肢のことを一切聞く必要はない。(カレーとラーメンのどちらが好きかすら聞く必要もないが。)したがって、「五十音順ルール」は「無関係な選択肢からの独立」を満たす。(本文に戻る)
問7 「五十音順」という固定順序は、「パレート性」を満たさないことを、具体的な例を挙げて説明してください。
解答
メンバー全員がラーメンの方がいいと思っているときも、グループは五十音順にしたがってカレーを良しとする。これはパレート性の定義に反する。(本文に戻る)
問8 ボルダ・カウントが「無関係な選択肢からの独立」を満たさないことを、,, という3つの選択肢を持つ二人(AさんとBさん)の例で示してください。
解答
AさんとBさんの二人が、,, という3つの選択肢に直面しているとしよう。
ケース (i) では
Aさんの選好:
Bさんの選好:
であるとする。また
ケース(ii) では
Aさんの選好:
Bさんの選好:
であるとする。グループ (group) が と を比べる状況を考えよう。Aさんは の方が より良く、Bさんは の方が より良い、という状況はケース(i),(ii)で変わらない。したがって、もし「無関係な選択肢からの独立」を満たすのであれば、どちらのケースでもグループの決定は同じになるはずである。
ところがボルダ・カウントの下では、ケース(i)では と は3点タイ()、ケース(ii)では4点 vs 3点で が選ばれる()。これはボルダ・カウントが「無関係な選択肢からの独立」を満たす方法ではないことを意味する。(本文に戻る)