>> 1011

練習問題


これまでの内容を理解するために、練習問題を解いてみましょう。以下の問題では数式は一切出てきませんが、定義に立ち返って厳密に考える論理的思考が要求されます。数学力を上げるため、しっかり練習してください。


問1(>> 解答
「パレート性」の定義は何か。


問2(>> 解答
「ボルダ・カウント」がパレート性を満たす方法であることを証明してください。


問3(>> 解答
常にある特定のメンバーの選好に従う方法を「独裁」という。「独裁」がパレート性を満たすことを証明してください。


問4(>> 解答
「無関係な選択肢からの独立」の定義は何か。


問5(>> 解答
「独裁」というルールは、「無関係な選択肢からの独立」を満たすことを証明してください。


問6(>> 解答
「五十音順」という固定順序は、「無関係な選択肢からの独立」を満たすことを説明してください。


問7(>> 解答
「五十音順」という固定順序は、「パレート性」を満たさないことを、具体的な例を挙げて説明してください。


問8(>> 解答
ボルダ・カウントが「無関係な選択肢からの独立」を満たさないことを、xyz という3つの選択肢を持つ二人(AさんとBさん)の例で示してください。


どうでしたか。問題を解きながら、「〇〇って何だっけ?」と何度も分からなくなった人は、訓練になっている証拠です。必ず定義を頭に入れて、1つ1つ理詰めで考えてください。


次回は、「固定順序」を改善して使えるかどうかを考えます。

>> 社会選択論(10)「固定順序」を修正して使えるか

解答

問1 「パレート性」の定義は何か。

解答
メンバー全員が「BよりAが良い」と思っている場合、グループにとってもAの方が良い。また、メンバー全員が「AとBは無差別だ」という場合は、グループにとっても無差別。(本文に戻る

問2 「ボルダ・カウント」がパレート性を満たす方法であることを証明してください。

解答
メンバー全員が「BよりAが良い」と思っているとする。このとき、メンバー全員がAを上位におくので、獲得ポイントはAの方が小さい。メンバー全員の点数を合計しても、やはりAの方が獲得ポイントが少ない。よって、ボルダ・カウントの下では、グループはAの方が良いと考える。したがって「メンバー全員が『BよりAが良い』と思っているとき、グループはAを優先する」ということなので、これはパレート性を満たしている。(本文に戻る

問3 常にある特定のメンバーの選好に従う方法を「独裁」という。「独裁」がパレート性を満たすことを証明してください。

解答
メンバー全員が「BよりAが良い」と思っているとする。このとき、グループはBではなくAを選ぶことを確かめればよい。(パレート性の定義を参照。)
 今、メンバー全員がBよりAの方が良いと思っているということだから、そのうちの一人である独裁者(名前をX氏とする)もAの方が良いと思っていることになる。X氏の独裁のもとでは、グループはAを選ぶ。よって示された。(本文に戻る

問4 「無関係な選択肢からの独立」の定義は何か。

解答
グループにとって選択肢AとBのどちらがいいか、それとも無差別かを判断する際、各メンバーに聞いていいのは「AとBどちらがいいか、それとも無差別か」だけ。そのほかの選択肢が絡んでくることは一切聞かない。(本文に戻る

問5 「独裁」というルールは、「無関係な選択肢からの独立」を満たすことを証明してください。

解答
グループにとってAかBかを選ぶ際、独裁のもとでは独裁者にAとBどちらがいいかを聞く。その他の選択肢をどう思っているかの情報はいらない。だから「独裁」は「無関係な選択肢からの独立」を満たす。(本文に戻る

問6 「五十音順」という固定順序は、「無関係な選択肢からの独立」を満たすことを説明してください。

解答
五十音順ルールのもとでは、カレーがラーメンよりも五十音順で先だから、グループはカレーを選ぶ。カレーとラーメンのどちらがいいかを判断する際に、各メンバーにその他の選択肢のことを一切聞く必要はない。(カレーとラーメンのどちらが好きかすら聞く必要もないが。)したがって、「五十音順ルール」は「無関係な選択肢からの独立」を満たす。(本文に戻る

問7 「五十音順」という固定順序は、「パレート性」を満たさないことを、具体的な例を挙げて説明してください。

解答
メンバー全員がラーメンの方がいいと思っているときも、グループは五十音順にしたがってカレーを良しとする。これはパレート性の定義に反する。(本文に戻る

問8 ボルダ・カウントが「無関係な選択肢からの独立」を満たさないことを、xyz という3つの選択肢を持つ二人(AさんとBさん)の例で示してください。

解答
AさんとBさんの二人が、xyz という3つの選択肢に直面しているとしよう。
ケース (i) では
Aさんの選好:x\succ y \succ z
Bさんの選好:y\succ x \succ z
であるとする。また
ケース(ii) では
Aさんの選好:x\succ y \succ z
Bさんの選好:y\succ z \succ x
であるとする。グループ (group) が xy を比べる状況を考えよう。Aさんは x の方が y より良く、Bさんは y の方が x より良い、という状況はケース(i),(ii)で変わらない。したがって、もし「無関係な選択肢からの独立」を満たすのであれば、どちらのケースでもグループの決定は同じになるはずである。
 ところがボルダ・カウントの下では、ケース(i)では xy は3点タイ(x \sim_g y)、ケース(ii)では4点 vs 3点で y が選ばれる(y\succ_g x)。これはボルダ・カウントが「無関係な選択肢からの独立」を満たす方法ではないことを意味する。(本文に戻る