「無関係な選択肢からの独立」
前回の例において、カップルのそれぞれの選好は
彼氏:アクション コメディー ロマンス ホラー
彼女:コメディー ロマンス アクション ホラー
でした。ボルダ・カウントの結果は、1位がコメディー(計3点)、2位がアクション(計4点)でした。
ここで仮に、どうしてもアクションを見に行きたい彼が、自分の選好順序をごまかして、
アクション ホラー ロマンス コメディー
だと言ったらどうなるでしょうか。ホラーを2位にして、代わりにコメディーを最下位にするのです。彼女の順位づけはそのままだとすると、コメディーの合計点は5となって首位から転落し、アクションに決まります。
ふつう、カップルや友だち同士でそういうことはあまりしません。お互いにとって良い選択肢を選ぼうとするでしょう。もしそうなら、好き嫌いの順序まで聞くのは良い方法です。でも、この方法は赤の他人同士での意思決定には向かない可能性があります。結果の操作がしやすいからです。
実は、ボルダ・カウントは「無関係な選択肢からの独立」という条件を満たしていません。集団の意思決定の方法がこの条件を満たしていないとき、結果の操作を引き起こしやすくなります。それは、次のような条件です。
各メンバーに「AとBの選択肢のどちらがいいと思っているか」(すなわち ,, のどれか)を聞けば、グループにとってAとBどちらがいいかが決まる。それ以外の選択肢に関わることは聞かなくてよい。
コンドルセの方法はこの条件を満たしています。学童クラブの子供たちの方法(多数の選択肢で一度に多数決をとる方法)やボルダ・カウントは満たしていません。「無関係な選択肢からの独立」を満たさない方法では、AとBのどちらが好きか、誰も意見を変えていないのに、グループの選好は(他の選択肢の影響しだいで)AになったりBになったりします。
カップルの映画の例を見てみましょう。彼が嘘をつく前も後も、彼の順位付けは「アクション コメディー」で変わりありません。彼女も「コメディー アクション」で変わりありません。にも関わらず、結果は「コメディー アクション」から「アクション コメディー」へと逆転しています。アクションとコメディーの勝負が、それ以外の選択肢の影響を(点数を介して)受けているのです。
「無関係な選択肢からの独立」を満たしていない方法は、自分の選好を偽って結果を操作できる可能性を広げます。その可能性を消す最も簡単な方法は、「固定順序」という方法です。次回はこの方法を説明します。
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