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コンドルセのパラドックスはどれくらい深刻か


集団の選好が堂々巡りになってしまう「コンドルセのパラドックス」は、単なる可能性というだけでは片付けられません。その理由は3つあります。


1つめは頻度に関する懸念です。メンバー3人が3つの選択肢に直面している場合、コンドルセのパラドックスが起こるのは、216の組み合わせの中で12通りだけだと言いました。しかしこの割合は、メンバーの数や選択肢の数が増えるほど高くなります。大きな組織や国のレベルでは、コンドルセのパラドックスが生じる可能性が高まります。


2つめは、コンドルセのパラドックスに持ち込むという戦略が存在することです。例として、以下のような選好を考えてください。

A君:蕎麦\succラーメン\succカレー
B君:カレー\succ蕎麦\succラーメン
C君:ラーメン\succ蕎麦\succカレー

この場合、3人とも正直に投票するなら、堂々巡りは起こりません。蕎麦 vs ラーメンの投票でも、蕎麦 vs カレーの投票でも蕎麦が勝つので、3人はおそらく蕎麦を食べに行くことになるでしょう。でも、もしC君が自分の選好を偽って「ラーメン\succカレー\succ蕎麦」であるように振る舞えば、堂々巡りに持ち込めます。C君がどうしてもラーメンが食べたいと思ったら、そうするかもしれません。


3つめの理由は、政治や経済などの分野においてしばしば重要になります。どこの店が美味しいかという問題なら、メンバーの選好はだいたい似ているかもしれません。でも、メンバーの選好が真っ向から対立する議題もあります。それが「分配問題(distributional politics)」です。


例えば、3人のリーダー(A,B,C)が、1億円を分け合うところを想像してください。3人のうち2人が同意したら決定とします。3人とも、自分の部下たちのためにできるだけたくさんの分け前を得たいと思っているとしましょう。


以下ではA,B,Cが受け取る額を、順番に並べて表すことにします。例えば(0.333,0.333,0.333) は、3人が1億円をちょうど3分の1ずつ受け取るという意味です。部外者から見ればこれが平等で良いような気がしますが、これで決着する保証はありません。例えばAはBに (0.5,0.5,0)という代替案を提案できます。Cを排除して、2人だけで0.5億円ずつ山分けするという案です。最初の案と代替案の間で多数決を取れば、A,B両者の賛成で後者に決まります。


もちろんCは黙っていないでしょう。Cは (0.7,0,0.3) を提案できます。自分を排除しなければ、Aにもっと分け前をやるぞ、という提案です。先の (0.5,0.5,0) との間で投票すると、AとCの賛成で、(0.7,0,0.3)に軍配が上がります。


Bは自分が排除されないように、やっぱり3分の1ずつ分ける最初の案を提案できます。結局はCにとってもそっちの方が良いのです。多数決だけではグルグル堂々巡りしてしまうことが分かります。組織や政治の決定事項は、その多くが本質的に分配問題なので、コンドルセのパラドックスは不可避なのです。


多数決のやり方を変えればいいのではないか、と思った人もいるかもしれません。たしかに、コンドルセの方法にこだわる必要はありません。そこで次回は、ちょっと違う多数決の方法を考えてみましょう。

>> 社会選択論(5)多数の候補で一度に多数決