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一貫性のある選好


「私はカレーよりラーメンがいい。」
これは、経済学が「選好 (preference)」と呼ぶものの一例です。社会選択論では、人々の選好には一貫性があると仮定します。あとで詳しく説明をしますが、一貫性がない選好とは、例えば「カレーよりラーメンが好きで、ラーメンより蕎麦が好きで、蕎麦よりカレーが好き」と、堂々巡りになっているものです。


社会選択論のテーマは集団の意見をまとめることですから、そのような人がたくさんいては困ります。それは、できるだけ人々の要望に応えたいと考える経済学全般にとっても同じことです。ですから社会選択論を含む経済学の各分野では、「人々の選好には一貫性がある」と仮定して議論を進めます。この仮定を厳密に学ぶことが今日のテーマです。


まず「選好」から説明します。今、あなたの前に選択肢が m 個あるとします。ランチは何にするか、海外旅行の行き先はどこにするか、などの選択肢です。m 個の選択肢の中から任意に2つの選択肢を取ってきたとしましょう。このとき「2つのうちどちらの方がいいか」があなたの選好です。


例えばランチの選択肢として、蕎麦とカレーを考えましょう。「蕎麦の方がカレーよりもいい」ことを、経済学では不等号に似た記号を使って

蕎麦 \succ カレー


と書きます。また、好ましさの程度が同じであることを経済学では「無差別 (indifferent)」と言いますが、「蕎麦とカレーが無差別」であることを


蕎麦 \sim カレー


と書きます。あなたは今、お蕎麦とカレーどちらが食べたいですか? カレーとラーメンならどっちですか? \succ\sim の表記を使って表してみてください。


表記が覚えられたら、次は「一貫性のある選好」です。あなたの選好に一貫性があるとは、あなたの選好が以下の2つの条件を満たしていることを言います。


条件1) 任意に2つの選択肢 XY を取ってきたとき、
X \succ Y または X \prec Y または X\sim Y の3つのうちどれか1つだけが成立する。

2つ以上成立してしまう人とは、例えば「自分はカレーよりラーメンが好きであり、ラーメンよりカレーが好きである」という人です。経済学では、こういう変わった人は除外して議論を進めます。逆に3つとも成立しない人とは「自分は今カレーよりラーメンが食べたいというわけではないし、ラーメンよりカレーが食べたいわけでもないし、どっちも同じくらい食べたいとか、同じくらい食べたくないとかいうわけでもない」という人です。経済学では、こういう人も除外して議論を進めます。


条件2) 任意の3つの選択肢 XYZ を取ってきたとき、
X \succ Y かつ Y \succ Z ならば、X\succ Z が成立する。
X \sim Y かつ Y \sim Z ならば、X\sim Z が成立する。

これは冒頭でも述べたことです。個人の選好はジャンケンではありません。「カレーよりラーメンが好きで、ラーメンより蕎麦が好き」と言うのであれば、カレーより蕎麦が好きでなければいけません。また、カレーとラーメンが全く同じ程度に好きで、ラーメンと蕎麦も全く同じ程度に好きなら、カレーと蕎麦も同じくらい好きでなければいけません。経済学ではそのような個人を想定します。


条件1を「比較可能性 (comparability)」、条件2を「推移性 (transitivity)」と言います。両方を満たしている選好が「一貫性のある (coherent)」選好です。


一貫性のある選好の意味はしっかり押さえられましたか。それを踏まえて、次回は一貫性のある選好を持った3人が登場し、グループとしての意思決定を試みます。

>> 社会選択論(2)コンドルセのパラドックス