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タダ乗りゲームの場合4(“N人のうち1人”)


たくさんの人がいて、そのうち誰か1人でも行動してくれれば全員がハッピー、という状況は多くあります。授業中、教授に「スライドが映っていません!」と指摘するとか、街中で倒れた人のために、救急車を呼んであげるとか。そのような状況における混合戦略均衡を分析してみましょう。


ある教授が講義をしています。プロジェクタが映っていないのですが、教授はそのことに気がついていません。部屋には N 人の受講生がいて、そのうち誰か1人でも声をあげて指摘してくれれば、全員が恩恵1を得られます。声を挙げた人はコスト c0<c<1 とする)を払います。みんなが傍観している場合は、全員の利得がゼロです。


今回も、みんなが同じ確率を選ぶ混合戦略均衡を見つけます。誰か1人を選んで、その人の立場に立ち、それ以外の人たちの採用する確率を求めるのです。そこで、N 人の受講生のうちのひとりを、倫太くんとしましょう。もし他の N-1 人の人たちが、それぞれ確率 p で声を挙げてくれるとすると、倫太くんの期待利得と無差別性の条件はどうなるでしょうか。


倫太くんが行動する場合
自分が声を上げるなら、他の人の行動は関係ありません。目的は達成され、倫太くんを含め全員が恩恵1を得ます。もちろん、倫太くんは面倒を負った分コストがかかって、それを差し引いた利得 1-c を得るでしょう。


倫太くんは行動しない場合
では倫太くんが、自分は黙っているという選択肢を選んだらどうでしょうか。この場合の倫太くんの利得は、他の人たちの行動に依存します。倫太くん以外のN-1 人は、それぞれ確率 p で声をあげ、確率 1-p で黙っています。すると、他の N-1 人が、全員黙っている確率は、(1-p)^{N-1} です。ということは、他の人たちのうち、少なくとも1人が声をあげてくれる確率は、1-(1-p)^{N-1} です。この確率で倫太くんはタダ乗りできて、恩恵1を得ることができます。倫太くんの期待利得は 1-(1-p)^{N-1} です。


最終的には倫太くんも、声をあげるか黙っているか、無差別になってもらわなければなりません。ですから、倫太くんにとって、

    \begin{eqnarray*}1-c = 1-(1-p)^{N-1}\end{eqnarray*}


が成立します。これを解くと、求める確率は

    \begin{eqnarray*}p^* = 1-c^{\frac{1}{N-1}}\end{eqnarray*}


となります。N 人全員が、それぞれこの確率で声を挙げようとするのが、混合戦略均衡です。N=2 の場合はユーリーと一郎のゲーム、N=3 の場合はユーリー、一郎、アフマドのゲームと答えが一致しているはずです。


さて、ここで問題です。元々たくさん人がいるほど、「少なくとも誰か1人は声を挙げてくれる確率」は高くなるでしょうか。次回はそれを調べてみましょう。

>> 混合戦略(11)タダ乗りゲームの場合5 傍観者効果