タダ乗りゲームの混合戦略均衡3(“3人のうち2人”)
今回考えるタダ乗りゲームでは、3人のうち少なくとも2人が行動すれば目的が達成されて、3人とも恩恵を受けられます。例えば、王様がとんでもない法律を思いつき、これに対し3人の大臣のうち2人が反対しないと、国が大変なことになってしまうという状況です。この場合、行動するとは、王に嫌われるのを承知で、国民のために王に苦言を呈することです。
大臣たちの嬉しさは、法律が阻止できれば1、阻止できなければ0としましょう。また、前回同様、行動にはコスト が伴います。前回と違うのは、1人だけ行動を起こしても何にもならず、コストの払い損になる、という点です。法案の廃止という「公共財」が供給されるためには、A, B, C3人の大臣のうち、最低2人の行動が必要です。
「Aは他人まかせ。BとCがいつも率先して行動する」という状況も十分あり得ますが、今日は3人それぞれが、確率 で行動する混合戦略均衡を求めましょう。大臣Aの立場に立って、BとCが採用すべき確率 を計算します。
まず、自分は行動しない場合です。公共財が供給されるのは、BとCが2人とも行動してくれる場合だけです。それぞれ確率 で行動してくれるので、確率 で目的は達成され、大臣Aも恩恵1を得られます。そうでなければ恩恵は0なので、期待値は です。期待利得は となります。
一方、自分もコスト を払って行動するならば、最低あと1人行動してくれれば、目的は達せられます。BとCは確率 で行動しないので、少なくとも一方が行動してくれる確率は で、このとき大臣Aは恩恵1を得られます。期待利得からコストを差し引くと、 です。
したがって大臣Aにとっての無差別性の条件は
であり、整理すると です。これを解くと求める確率は
となります。たとえば ならば 0.1,0.9 です。実はこの問題では、混合戦略均衡が2つ存在します。
一方の混合戦略均衡では、A,B,Cの3人とも、確率0.1でしか行動しません。「自分が法律に反対しなければ、おそらく法律は成立してしまうけど、自分が反対すれば、ひょっとして阻止できるかも。どうしようかなあ」という感じの、ちょっと悲観的な均衡です。
もう一方の混合戦略均衡では、A,B,Cの3人とも、確率0.9で行動します。「自分が反対すればほぼ確実だけれど、自分が反対しなくても大丈夫かも。どうしようかなあ」という感じの、楽観的な均衡です。
一般に、 人のプレーヤーがいるタダ乗りゲームでは、目的達成に必要な人数が 2人〜 人の場合に、このように悲観的な均衡と楽観的な均衡の2つの混合戦略均衡が存在することが知られています。
次回は、1人でも行動してくれれば目的が達成される、というタダ乗りゲームに戻り、さらに掘り下げて分析したいと思います。
>> 混合戦略(10)タダ乗りゲームの混合戦略均衡4(“N人のうち1人”)