マッチング・ペニーの場合2
今回は、前回のマッチング・ペニー・ゲームの条件(賞金)を少し複雑にして考えてみましょう。追う側のA君はコインが「おもて・おもて」でマッチした場合は1千円もらえるけれども、「裏・裏」でマッチした場合は250円しかもらえないというルールにするのです。逃げるBさんの方は変更ありません。「おもて・裏」でも「裏・おもて」でも1千円もらえます。
さて、この設定では、もはや「お互いにおもてと裏を半々の確率で出す」のは混合戦略均衡になりません。もしBさんが本当におもてと裏を半々の確率で出すのであれば、A君にとっては、勝っても250円しかもらえない「裏」より、勝てば1千円もらえる「おもて」の方が得だからです。A君にとっておもてと裏が無差別でなくなっているので、混合戦略均衡の条件が崩れています。
では、A君とBさんの採用する手と確率はそれぞれ何になるでしょうか。ここで以前強調したことですが、A君の確率を決めるのはA君ではないことを思い出してください。A君の選ぶ確率は、Bさんの無差別性を保つように決まり、同様にBさんの選ぶ確率は、A君の無差別性を保つように決まるというのが、混合戦略に関する最も重要なポイントでした。
今回の場合、A君が相変わらずおもてと裏を半々の確率で出すことは、容易に分かります。Bさんは「おもて・裏」でも「裏・おもて」でも1千円もらえるので、A君の確率が半々でなければ、Bさんにとって「おもて」で攻めるのと「裏」で攻めるのが無差別にならないからです。
一方、Bさんの選ぶ確率はどうでしょうか。Bさんがおもてを出す確率を とおいて、この を、A君の無差別性から求めましょう。A君はおもてを選べば、確率 でコインが一致して1千円もらえるので、A君の期待利得は 千円です。一方、A君が裏を選んだ場合は、確率 でコインが一致して250円(=0.25千円)もらえるので、A君の期待利得は 千円です。A君にとって、おもてを出すのと裏を出すのが無差別になるためには、千円 千円である必要があります。これを解くと、解は です。
こうして、混合戦略均衡では、A君はおもてと裏を半々の確率で出し、Bさんはおもてを確率20%、裏を80%で出します。A君にとっては、おもてで勝ったときの賞金は裏で勝ったときの4倍なのですが、Bさんがおもてを出してくる頻度は、裏を出してくる頻度の4分の1しかなく、結局「おもてで攻めるのも裏で攻めるのも無差別」ということになっています。これが混合戦略均衡です。
初心者の人は、「A君にとっては『おもて・おもて』の方がたくさん賞金をもらえるのだから、おもてを高い確率で出すはずだ」と思いがちですが、それは間違いです。本当におもての方が得であれば、A君は「高い確率で」などと中途半端なことはせずに、「必ず」おもてを出すはずで、そうなったらもう混合戦略均衡ではありません。ここは難しいポイントなので、「なぜランダムに出すのか」に戻って何度でも復習してください。
ここまで、マッチング・ペニー・ゲームの混合戦略均衡を求める練習をしました。次回はコーディネーション・ゲームで混合戦略均衡を考えましょう。
>> 混合戦略(5)コーディネーション・ゲームの場合1