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カラ脅しゲーム1.困っても知らないよ

「カラ脅しゲーム」の1つめの類が、無茶する人と、それを救済する人のあいだのゲームです。例はいろいろありますが、3つ挙げればこんな感じです。


例1:最初にのび太がテストの勉強をするかどうか決め、勉強しないで0点を取ったら、今度はドラえもんが助けてあげるかどうか決める。

例2:海水浴客が、遊泳禁止区域で遊ぶかどうか決め、遊んでいて沖に流されそうになったら、今度はライフセーバーや救助隊が、助けてあげるかどうか決める。

例3:経済で大きな役割を果たしているメガバンクが、預かったお金でギャンブルのような投資をするかどうかを決め、もしギャンブルして破綻したら、政府が税金を投入して救済するかどうかを決める。


これらがなぜ「カラ脅しのゲーム」と呼べるかというと、ドラえもんはのび太に「0点を取っても、僕は助けてあげないよ」と言うし、海難救助隊は海水浴客に、「禁止区域で遊んで事故に遭っても知りませんよ」と言うし、政府は大銀行に、「リスクを取り過ぎて破綻しても、救済しないぞ」と言うでしょうが、そう言っても無駄だからです。


ゲーム理論の予測は、そんな脅しにも関わらず、のび太は勉強しないし、人々は危険な所に入っていくし、大銀行はギャンブルをするというものです。理由はだいたい想像がつくでしょう。「怪我しても知らないよ」と子供に言ったからといって、子供がいざ怪我したときに本当に放っておく親はいません。子供もそれを知っているから、無茶をします。「助けてやらないよ」がカラ脅しですね。


カラ脅しゲームが理論的に面白い理由を、のび太とドラえもんの例で説明しましょう。それは、テストで0点を取ったのび太を見捨てることが、ドラえもんにとってどんなに辛いことであったとしても、もしドラえもんが本当に「0点を取ったのび太を見捨てる」ことができるならば、結局のび太を見捨てずに済むということです。ちょっと逆説的ですが、理由は単純で、0点を取っても助けてもらえないとなれば、のび太は勉強するからです。つまり、0点を取ったのび太を見捨てることが、ドラえもんにとって最悪のことだったとしても、もしそれができるならば、ドラえもんにとってはむしろ嬉しい結果となるのです。


のび太に勉強させるために、ドラえもんはどうしたらいいでしょうか。強い口調で「0点を取っても、僕は絶対に、ぜーったいに助けないぞ」と言うことは、なんの役にも立ちません。のび太の目から溢れ出る噴水を見たら結局は助けてしまうことを、のび太に知られているからです。助けたくても助けられないようにする必要があります。


例えば、わけを話してドラミちゃんに四次元ポケットを1週間預かってもらうとか、もしのび太を助けたらネズミが千匹降ってくるような仕掛けを作っておくとかですね。そうやって「ほら見て、君が0点を取っても僕は助けられないよ」と言ったら、のび太も勉強するしかありません。のび太は0点を取らず、ドラえもんにとって最上の結果となります。


助ける人が抱えるジレンマを、理屈のうえでは理解できたでしょうか。カラ脅しゲームのイメージを定着させるため、次回はもう1つの典型例である「タダ乗りゲーム」を説明します。

>> カラ脅しとカラ約束(3)カラ脅しゲーム2.僕はやらないよ