多数の候補で一度に多数決
4年生のユウキ君が通う学童クラブでは、その日何をして遊ぶかを多数決で決めます。子供は全部で40人いて、ユウキ君が隠れんぼを提案し、他の子たちがフットベースやお店屋さんごっこを提案したら、それぞれの子が「隠れんぼ、フットベース、お店屋さんごっこ」の中から1つ選んで手を挙げます。一番多く票を集めた遊びに決まります。
この多数決は、先に説明したコンドルセの方法とは違います。コンドルセの方法では、「隠れんぼとフットベースならどっちがいい?」「フットベースとお店屋さんごっこなら?」と二者択一の多数決をいくつも行います。その結果、ジャンケンのように堂々巡りが起こってしまう可能性がありました。
一方、「隠れんぼ、フットベース、お店屋さんごっこ」の3つの中から1つを選ぶ多数決を1回きり行うなら、その心配はありません。票が多いほどみんなにとって良い、というルールなので、例えばフットベースが24票、隠れんぼが14票、お店屋さんごっこが2票という結果ならば、グループ全体の選好は、
フットベース 隠れんぼ お店屋さんごっこ
となります。( は “group” の頭文字です。)同点タイが起こった場合はどうするかさえ決めておけば、何で遊ぶかちゃんと決まります。つまり、多数の候補を一度に多数決にかけるこの方法は、「全域想定」ができているのです。
ところがこの方法は、コンドルセの方法にはなかった新たな問題を引き起こします。実はユウキ君は、ボール遊びが大の苦手で、フットベースは嫌いです。でも学童クラブの子供たちは、男の子たちを中心に、ボール遊びが好きな子が多い。
ユウキ君は知恵を働かせます。「フットベースもいいけど、自分はそれよりかはドッジボールがいいなあ」と言って、ドッジボールも候補に挙げます。それから「やっぱりサッカーも捨てがたい」と言ってサッカーも挙げます。それで投票をするのです。ボール遊びの好きな男の子たちが、僕はフットベース、俺はサッカーと意見が割れてくれれば、隠れんぼが1位になることでしょう。
常に二者択一の投票を行うコンドルセの方法では、この問題は起こりません。隠れんぼよりもフットベースが好きな子が多ければ、集団にとっても「フットベース 隠れんぼ」です。でも全ての選択肢を同時に多数決にかけると、おかしなことが起こります。隠れんぼよりフットベースが好きな子が多くても、ドッジボールやサッカーに票が流れれば、「隠れんぼ フットベース」になりかねないのです。
票の分散を狙ったダミー候補(ここではドッジボールやサッカー)の擁立を無力にする1つの方法は、一人ひとりに、それぞれの遊びがどれくらい好きなのかの点数をつけてもらうことです。その一例が「ボルダ・カウント」という方法です。次回はこの方法を説明します。
>> 社会選択論(6)ボルダ・カウント