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モデルの仮定を批判する② 需要主導


第10回で見たように、45度線モデルによれば、税金を上げて政府支出を増やしても、ちょうどその分しかGDPは増えず、消費を刺激する効果はありません。しかし逆に言えば、45度線モデルでは、政府が国民に1兆円課税して使えばGDPは1兆円増え、100兆円課税して使えば100兆円増えることになります。


ということは、インフラや初等教育に限らず、衣食住も娯楽も全て政府が税金を使って市民に提供する 完全社会主義であれば、GDP はもっとずっと高くなることになります。1,000兆円でも、10,000兆円でも、税金をとって政府が使えば、それはそのままGDPとなり、人々の所得となります。この結果はさすがに非現実的ですね。45度線モデルは、政府部門の規模が莫大であるような極端なケースは、うまく分析できないのです。


この非現実的な結果は、45度線モデルが「需要主導のモデル」であることに起因しています。すなわち、需要Zには消費C、投資I、政府Gなどの細かい内訳がありますが、なかでも消費は、税引き後所得の影響を受けながら、内生的に決まります。つまり、45度線モデルでは、需要側に関しては、もっともらしい理屈で決まっています。


一方、「供給」の方は連立方程式の4本目の式である「Y=Z」、つまり、「ちょうど需要を満たすように産出は決まる」と言っているだけです。生産ラインや人手が不足して、供給したくてもできないような状況が起こることは想定されていません。あたかも、人や設備が有り余っている大不況時であるとか、需要さえあれば無制限に供給できる財(ソフトウェアやコンテンツの配信)だけを考えているかのようです。


本来、リソースには限りがあるので、需要があればあるだけ供給できるというわけにはいきません。したがって、政府がたくさんの財・サービスを需要・支出したとき、生産がそれに伴わず、民間の消費が圧迫されて減ってしまうこともあり得ます。45度線モデルはこれを考慮できないので、政府支出の景気刺激効果を過大評価しているという批判が可能です。こうした批判をもとに、需要側と供給側、双方を考慮したモデルが開発されていくことになります。


次回は「クラウディング・アウト」に基づいた45度線モデルの批判を紹介します。

>> GDPの45度線モデル(14)モデルの仮定を批判する③ クラウディング・アウト

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