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モデルの仮定を批判する④ 政府支出の内容
45度線モデルの売りの1つは、政府の財政支出が持つ「乗数効果」を具現化できることです。政府支出の内容は問いません。20億円かけて「穴を掘って、それから埋める」でもいいのです。GDPにはまず「穴を掘って埋めるサービス」の分が20億円計上され、そこから収入を得た人々による消費もGDPに上乗せされます。消費を誘発するきっかけに過ぎないのであれば、政府支出の内容はそれほど重要ではないかもしれません。
しかしながら、45度線モデルによれば、遅かれ早かれ税金でまかなうならば、政府支出に消費誘発効果はありません。もし政府が公共事業を行ったときに、本当にその分しかGDPにならないのであれば、公共事業の内容は重要でしょう。GDPは経済的な豊かさの代理指標に過ぎませんから、いくらGDPが100億円増えたとしても、それが「穴を掘って埋めるだけ」では意味がありません。
さらに言うと、45度線モデルの政府支出では、「政府の消費」と「政府の投資」すら区別されていません。長期的な視点では、銅像を建てるよりも、インフラ、教育、研究開発に投資する方が、将来の経済成長にとってプラスとなりそうですが、45度線モデルの政府支出は、それらを区別できません。先の3つの批判とも関連しますが、45度線モデルでは、長期的な視野でどのような財政政策が望ましいかを問うことはできないのです。これが4つめの批判例です。
なぜ数式で説明するのか
さて、ここまで45度線モデルの主張と、モデルに対する批判の例を紹介してきました。これらを通して、なぜ経済学が数学モデルを使うのか、改めて考えてみましょう。現在用いられている経済学のモデルは、たくさんの式と変数を持ち、解くのにコンピューターが使われる場合もあります。「数学なんて使わずに、言葉だけで説明してくれればいいのに」という感想を持つ人もいるかもしれません。しかし経済の問題は、言葉だけで説明するには複雑過ぎることが多いのです。
政府の景気対策の効果ひとつをとってもそうです。たしかに消費が刺激されるかもしれませんし、人々は将来の増税を警戒するかもしれません。政府が物やサービスを使う分、民間の消費や企業の投資が圧迫されるかもしれません。政府支出の内容も、のちのちの経済成長に影響するかもしれません。さらには、政策が賃金や金利、インフレ率、為替レートにまで影響して、それが消費や投資に跳ね返ってくるかもしれません。
それらを考慮して、「政府支出をいくら増やしたら、GDPはいくら増えるだろう」などと言葉だけで一貫性のある議論を展開するのは困難です。経済学の議論では、どんな要因を考慮し、どんな要因を無視しているかを毎回明確にし、仮定が結論にどう影響するかをはっきりさせるため、仮定を何十本もの式で表し、結論を方程式の解として導くという方法を取ることにしたのです。そんな経済学の方法論も、45度線モデルを勉強したことで実感できると思います。
さあ、次回は45度線モデルの復習のために、正誤問題に挑戦してみましょう。
>> GDPの45度線モデル(16)理解度チェック正誤問題