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モデルの仮定を批判する③ クラウディング・アウト


45度線モデルでは、企業の投資 I も、政府の支出 G も外生変数です。つまり、政府が G を20億円分増やしたとき、I がその影響を受けることはないと仮定されています。実際はどうでしょうか。鉄道、電話、郵政などは、かつては国営で行われていたものが、のちに民営化されました。もし逆に、国が国営の地下鉄や、郵便事業、政府系の金融機関などを立ち上げて事業を行ったらどうでしょう。ひょっとしたら、民間の事業が圧迫され、民間投資が縮小する可能性はないでしょうか。


英語で「クラウディング・アウト (crowding out)」は、「混雑させて押し出すこと」を意味する言葉です。小さな場所に何かを押し込んだことによって、反対側から別のものが押し出されるイメージです。マクロ経済学では、例えば政府が事業を拡大することによって、そのぶん民間の事業が縮小する可能性を指します。


45度線モデルでは、企業の投資 I は外生なので、政府の支出が増えたことで影響を受けることはありません。言い換えると、45度線モデルは、クラウディング・アウトの効果を再現できないモデルなのです。でも現実には、政府が消費や投資を増やしたら、民間の消費や投資が減るかもしれません。したがって、ここでも、45度線モデルが政府の支出の経済効果を過大評価しているという批判が可能です。


この点に関しては、あとで出てくる「IS-LMモデル」という別の有名なモデルで改善されています。IS-LMモデルの連立方程式では企業の投資 I は内生変数であり、政府が公共事業をすれば、I はその影響を受けて鈍ります。


次回は、45度線モデルでは政府支出の内容の良し悪しが問えないという問題についてお話しします。

>> GDPの45度線モデル(15)モデルの仮定を批判する④ 政府支出の内容