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三面等価
今日のポイント
GDPの「産出・所得・支出」の3側面が、数字のうえで同じになるという考えを「三面等価」という。ただし厳密に三面等価を成立させようとすると、様々な補正がいる。
ある年に作られた全ての財とサービスの合計であるGDP。前回はこのGDPに産出、所得、支出(需要)の3つの側面があることを説明しましたが、マクロ経済学には、この3つに関して「三面等価」という考え方があります。GDPを生産、所得、支出のどのタイミングで推計したとしても、数字としてはだいたい同じになるはずだという考え方です。新たに「生み出された」価値が、誰かしらの「所得」になり、それはやがて「使われる」と考えれば、3つは等しくなるでしょう。これが三面等価ということの意味です。
前回出てきた「江戸時代のお米のたとえ」だと何となく受け入れられますが、多様な財とお金が存在する一国の経済では、なかなかしっくりきません。実際、さまざまな工夫をしないと、3種類のGDPは値がずれてしまいます。「三面等価」を厳密に成立させようとすると、いろいろなつじつま合わせがいるのです。
例えば、生産されたけど、誰も使う人がいなくて廃棄されてしまうものがあったら「産出=支出(需要)」にならなさそうです。これに関しては、「捨てられたものは、そもそも作られなかったことにする」か、あるいは「捨てられた場合も、使われたとみなす」という決まりが必要です。
物が生産されるタイミングと使用されるタイミングがずれる場合はどうすればいいでしょうか。車を作ったけど、年内には誰にも買われずに在庫となった場合、「産出>支出」のはずです。逆に、昨年在庫となった車が今年買われたなら、「産出<支出」のはずです。これに関しては、在庫の積み増しも支出のうち、とみなしてしまいます。そうすれば「産出=支出」が保たれます。
同様に、在庫があると、生産と所得のタイミングもずれてしまいます。作った車が売れ残ったら「産出>所得」ですし、逆に、昨年在庫となった車が今年になって売れたなら「産出<所得」です。これに関してはつじつま合わせの方法がありません。ただ、一国全体では、在庫の増減は全GDPの1%程度と小さめなので、これは誤差の範囲(正式には「統計上の不突合」と呼ぶ)とみなしてしまいます。おおよそ「産出=所得」ということです。
生産を伴わない所得はどうすればいいでしょうか。たとえば、企業が過去に購入し保有していたものが値上がりした場合、儲けにはなりますが、生産活動は伴いません。これに関しては、「マクロ経済学上の所得は、値上がり益を含まない」ということに決めておきます。実際に価値が生み出されたときにだけ、所得が生まれたと考えるのです。このため、マクロ経済学で企業の所得を調べるときは、本業からの営業利益だけを見ます。
このように、GDPの三面等価の成立には、やや強引な解釈も必要なのですが、ここからは先は、だいたい成立しているものと受け入れて話を進めたいと思います。
>> GDPの45度線モデル(5)乗数効果