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行列で表した分散公式


前回勉強した、「確率変数がn個ある場合の分散公式」。それを今回は行列で表してみます。行列で表すと、公式が覚えやすい、エクセルを使った計算が速くなる、ファイナンス理論への応用がしやすいなど、様々なメリットがあります。


結論を先に言えば、行列で表した分散公式は、「w'Vw」という非常にコンパクトな表現になります(Vw の意味はこれから説明します)。今回の内容の基礎知識として、「行列の基本(16)二次形式の行列表現」を勉強してください。


確率変数が n 個あるとき、分散は n 個あります。共分散は確率変数のペアの数だけあります。それらを以下のように規則正しく並べたものを、「分散共分散行列 (Variance-covariance matrix)」と呼び、V で表します。


分散共分散行列を作るときは、n 個の分散を左上から右下にかけて、対角線上に並べます。



共分散は、例えば確率変数 X_1X_2 の共分散であれば1行2列目に、X_1X_3 の共分散であれば1行3列目に配置します。完成した分散共分散行列 V は、n 行 n 列の行列です。




ちなみに、2つの確率変数の順番を入れ替えても共分散は同じ値です(\mbox{Cov}[X_1, X_2]=\mbox{Cov}[X_2, X_1])ので、分散共分散行列は、対角線を軸に対称となっていることも知っておいてください。


次に、n 個の確率変数の係数 w_1, w_2, \cdots, w_n をベクトルで表しておきます。縦に並べたものは w,横に並べたものは w' と表します。


前回の分散公式は、V, w, w' の掛け算で表すことができて、



すなわち、単に w'Vw となります。確率変数の線型結合の分散は、「係数を並べたベクトルで、分散共分散行列をサンドイッチしたもの」となるのです。


それでは、以前も使った数値例で、この公式を使う練習をしてみましょう。


問題
確率変数が3つあり、それぞれ分散はVar(X)=131, Var(Y)=58, Var(Z)=24で与えられるとする。また共分散はCov(X, Y)=46, Cov(X, Z)=27, Cov(Y, Z)=15 で与えられるとする。


問1:分散共分散行列を作りなさい。
問2:0.2X + 0.5Y + 0.3Z の分散を行列の掛け算で表しなさい。
問3:行列の掛け算を実行して、分散を求めなさい。

(解答はこちら


どうでしたか。これで分散公式の講義はおしまいです。分散公式は、ファイナンスの投資ポートフォリオ理論に応用されます。投資ポートフォリオの勉強の前に、しっかり頭に入れて、何も見なくても思い出せるようにしておきましょう。



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問1
分散はX, Y, Zの順に対角線上に並べる。共分散は、Cov(X,Y) を 第(1,2)成分と第(2,1)成分に、Cov(X,Z) を 第(1,3)成分と第(3,1)成分に、Cov(Y,Z) を 第(2,3)成分と第(3,2)成分に配置する。よって



問2
公式中の w は、0.2, 0.5, 0.3 を並べたものになるので、横に並べたものと縦に並べたものとで、分散共分散行列を挟めばよい。よって

    \begin{eqnarray*}\left( \begin{array}{ccc}0.2 & 0.5 & 0.3 \end{array} \right)\left( \begin{array}{ccc}  131& 46 & 27 \\  46 & 58  & 15 \\ 27 & 15 & 24 \end{array} \right)\left( \begin{array}{c}  0.2 \\  0.5 \\ 0.3 \end{array} \right)\end{eqnarray*}




問3
行列のかけ算があやふやな人は、行列のかけ算1~5を参照のこと。行列のかけ算を実行すると



よって、求める分散は38.84となる。前々回の例題と、答えが一致しているはずである。

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