産出 =「一種類の財」
生産の結果として生み出される財やサービスを、「産出(アウトプット)」と言います。実際の産出には、さまざまな農産物、工業製品、サービスが含まれます。でもマクロ経済学では、そのような個別の財やサービスをいちいち考えません。1億円なら1億円分の価値のモノが作られたということが重視され、その中身はあまり気にしないのです。生み出された全ての物の合計の価値である「GDP(国内総生産)」を計算し、そのあとはGDPを使って議論します。
現実の世界を単純化した模型世界を、マクロ経済学では「モデル」と呼びます。現実の話をするときですら個別の財は考えないのですから、ましてや「モデル」に個別の財は登場しません。例えば「45度線分析モデル」にも個別の財は登場しませんでしたね。これから私たちが勉強する多くのマクロ経済学のモデルも、1種類の財しか登場しない世界です。その財を、あるときは消費者が消費し、あるときは企業が投資に用います。
たった1種類の財が、消費にも投資にも使われるというのは、最初は奇妙な感じがします。通常は慣れるのに時間がかかるのですが、早く慣れるための裏技があります。それは、「何にでも使える万能な財」を想像してみることです。食べることも、着ることも、乗ることも、遊ぶこともできる、粘土のように形を変えて家や工場にすることもできる、そんな魔法のような財をイメージするといいでしょう。当サイトではこれを「マジカル・ポテト」と呼ぶことにします。このマジカル・ポテトの生産量がGDPだと考えましょう。(注:試験やレポートでは単に「財」と言ってください。)
もちろん、実際にそのような財が存在すると、経済学者が信じているわけではありません。あくまで多種多様な財やサービスを、ひとまとめに「財」と言ったときに、イメージしやすくするための工夫です。
多種多様な財やサービスをマジカル・ポテトでイメージしていると、もう一つメリットがあります。それは、「貨幣(お金)」が無くても賃金や配当をイメージできるようになることです。お札や電子マネーはふつうの財と扱いが異なるため、マクロ経済学では、どうしても必要でない限り、モデルに貨幣を登場させません。
それでも、モデルの世界では、労働者が賃金を受け取ったり、資本家が配当を受け取ったりします。貨幣が無い世界で賃金や配当をイメージするのは難しいですね。そこで役立つのが、マジカル・ポテトです。生産される財もマジカル・ポテト、賃金や配当の支払いもマジカル・ポテトと考えれば、イメージできなくもないですね。
多様な財をひとまとめに考えることができれば、マクロ経済学の複雑なモデルも理解しやすくなります。次回はそのマジカル・ポテトを生産するために必要なインプットについて考えましょう。
>> 生産のモデル化(2)投入