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マルサス・モデル2 数式編


前回は、マルサス・モデルの概要を言葉で説明しました。今回は数式を使って説明します。


マルサス・モデルは過去から未来へと時間が流れていく「動学モデル (Dynamic model) 」です。最初の時点が t=1 で、t=2,3,4,\cdots と時点が推移して行きます。(t は time の頭文字です。)


モデルの世界に存在する土地 (Land) の量は L で表します。土地の量は次の期も、その次の期も変わらず一定です。また、この世界に存在する労働力、すなわち人口は N で表します。(本来は働けない人もいますが、話を簡単にするため、人口と労働人口は同一視します。)土地と違い、人口は時間とともに変化するので、時点 t の人口を N_t と表します。N_1t=1 での人口、N_2t=2 での人口といった具合です。初期の人口 N_1 は所与(=あらかじめ与えられている値)です。


t 時点の産出の量を Y_t で表します。Y_t はコブ・ダグラス型の生産関数(「生産のモデル化3」を参照)で決まると仮定します。農作物・家畜・木材などの生産量が、土地の量 L と労働の量 N_t で決まる様を想像してください。すなわち

    \begin{eqnarray*}Y_t=F(L, N_t) = AL^{\alpha} N_t^{1-\alpha}\end{eqnarray*}


土地の量は毎年増えないので、L には添字が付いていないことに注意してください。A は生産効率性を表すパラメータで、A が2倍になれば収穫も2倍になります。一方の \alpha は0と1の間の値をとるパラメータで、1に近いほど土地の方が労働と比べて生産への貢献度が高いことを表します。


資本主義においては、生産された物の一部が「投資」にまわされるのですが、マルサス・モデルでは投資は考えず、生産された物は全て消費されると仮定します。すなわち、総消費を大文字の C で表すならば、C_t=Y_t です。そして、一人当たりの消費を小文字の c で表すならば、c_t \equiv C_t/N_t です。この「一人当たりの消費」は、生活水準の指標となります。


マルサスのモデルの重要な仮定は、「生活水準 c_t が高いほど、人口の増え方が大きい」というものです。人口増加率(N_{t+1}/N_t のこと)は、生活水準 c_t の増加関数であると仮定します。ただし、増加の仕方は徐々に鈍っていくような関数を使います(以下の図を参照)。生活水準が劇的に上がったとしても、子供を育てられる数には限度があるからです。


人口増加率を決めるこの関数を g(c_t) で表します。


ここまで出てきた連立「漸化式」をまとめると

    \begin{eqnarray*}Y_t &=& A L^{\alpha} N_t^{1-\alpha}, \hspace{3mm} N_1=1\\C_t &=& Y_t\\c_t &=& \frac{C_t}{N_t}\\\frac{N_{t+1}}{N_t} &=&  g(c_t)\end{eqnarray*}



このモデルの外生パラメータA\alphaL,それから初期時点の人口N_1 です。これらの数値が与えられれば、t=1 期の産出、消費、生活水準は全て決まり、t=2 期の人口も決まります。その後も漸化式に逐次代入していくことにより、全ての時点での産出、消費、人口が決まります。


漸化式のことを大学では「差分方程式 (difference equation)」というので、私たちもそう呼ぶことにしましょう。次回はこれらの差分方程式をもとに、人口、産出、一人当たりの消費がどのように推移していくかシミュレーションしてみましょう。

>> 経済成長論(3)マルサス・モデル3 シミュレーション編

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