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株式の割引現在価値


ここまで、割引現在価値を求める例では、毎年もらえる金額は D 円で一定という仮定でした。今回は、毎年もらえる額が「一定率で増えていく」場合の割引現在価値を考えてみましょう。


例として、株式を考えてみましょう。株式の配当額は毎年一定ではなく、企業が成長していくにしたがって、年々少しずつ増えていくのが一般的です。いま、単純なケースとして、ある株の配当が「一定率 g で成長していく」と予想されているとしましょう。すなわち1年後は D 円、2年後は (1+g)D 円、3年後は (1+g)^2D 円・・・という具合です。


この場合、全ての配当を合算した現在価値は、割引率を i とおくと

    \begin{eqnarray*}S= \frac{D}{1+i} + \frac{D(1+g)}{(1+i)^2} + \frac{D(1+g)^2}{(1+i)^3}+ \frac{D(1+g)^3}{(1+i)^4} +\cdots \end{eqnarray*}


となります。複雑に見えるかもしれませんが、これも等比数列の無限和に過ぎません。初項 \frac{D}{1+i},公比 \frac{1+g}{1+i} ですから、

    \begin{eqnarray*}S&=&\frac{\frac{D}{1+i} }{1-\left(\frac{1+g}{1+i}\right)} \\&=& \frac{D}{i-g}\end{eqnarray*}


(2行目の変形は、分母・分子の双方に 1+i をかけている)となります。割引率が i=0.01(1%)で、初回の配当が D=5 万円、配当の増加率が g=0.005(0.5%) ならば S=1000 万円となります。株の理論価格をこのように算出するモデルを「配当割引モデル」と言います。(配当割引モデルはファイナンスの大事なモデルなので、別のシリーズで詳しく勉強します。)


次回は、毎年もらえる額が一定率で増えていくような「割賦」の計算です。

現在価値と割賦価値(7)インフレがある場合の割賦