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分散


前回は、お祭りにビール店とアイスクリーム店を出店するという設定で、ビールとアイスクリームそれぞれの売上げの期待値を計算しました。もう一度、前回の最後の表を見てみましょう。ビールもアイスクリームも売上げの期待値は66万円で同じなのですが、よく見るとビールの方がリスキーな商売であることに気づきます。暑ければビールは90万円も売れるのですが、寒いとたったの30万円しか売れません。一方、アイスクリームの方は、良くてもせいぜい80万円しか売れないのですが、悪くても40万円は売れるのです。


ビールに比べると、アイスクリームは手堅い感じがします。統計的な言い方をすると「ビールの売上げの方がばらつきが大きい」、経済学的な言い方をすると「ビールの売上げの方がリスクが大きい」とも言えますが、この「ばらつき」や「リスク」を測る指標が、「分散」と「標準偏差」です。分散は標準偏差を計算する過程で出てくる中途品で、順序としてはまず分散が求まり、それを標準偏差にします。


ステップ3
それではビールの売上げXの分散を求めてみましょう。以下の表「ステップ3」を見てください。まず、各状態におけるXの実現値から、平均の6.6を差し引いた、“平均からの乖離” を求め、新しい列に書き入れます。平均からの乖離は、「偏差」と呼ばれます。

上の表で例えば2.4 (JMY)は、「残暑」だったときの売上げ 9 (JMY)が、平均6.6よりも2.4 (JMY) 高い、ということです。また、-3.6 (JMY)は、「寒い」ときの売上げ3 (JMY)が、平均6.6よりも3.6 (JMY) 低い、という意味です。これが済んだら次のステップに進んでください。


ステップ4
今求めた、「それぞれの状態における(平均からの)乖離」を、それぞれ2乗して次の列に書き込みます。表「ステップ4」を見てください。

たとえば「残暑」のときの平均からの乖離2.4 (JMY)は2乗すると (2.4 \mbox{ JMY})^2 = 5.76 \mbox{ (JMY)}^2となります。同様に、「普通」のときの-1.6 (JMY), 「寒い」ときの-3.6 (JMY)も2乗して書き込みます。分散を計算するときのコツは、計算途中で数字を2乗したときに、単位が何であろうと、単位も機械的に2乗しておくことです。


ステップ5
今求めた列の平均を、確率を使って求めます。答えは次の表にあるように、6.24 (JMY)^2で、式は以下の通りです。

    \begin{eqnarray*} \mbox{Var}(X) &=& 0.5 \times 5.76 \mbox{(JMY)}^2+ 0.3 \times 2.56 \mbox{(JMY)}^2 + 0.2 \times 12.96 \mbox{(JMY)}^2\\ &=& 6.24 \mbox{(JMY)}^2 \end{eqnarray*}


これが分散 (Variance)と呼ばれる値です。頭の3文字をとってXの分散をVar(X)と表します。直観的な説明はあとにするとして、まずは計算方法だけ、アイスクリームの売上げYを使って練習しましょう。


ステップ6
アイスクリームの売上げの分散を計算します。手順は覚えていますか。まず、「残暑」「普通」「寒い」の各状態のときのYの値 8, 6, 4から、それぞれ平均\mu_Y=6.6を差し引いて「平均からの乖離」を求めてY-\mu_Yの列に書き込みます。次に、その結果をそれぞれ2乗して、(Y- \mu_Y)^2の列に書き込みます。最後に、確率0.5, 0.3, 0.2を使って加重平均を求めて、\mbox{Var}(Y) = 2.44 (\mbox{JMY})^2という答えが出てきます。それが次の表の「ステップ6」です。

分散を見ると、「ビールの売上げ」の方が6.24, 「アイスクリームの売上げ」の方が2.44なので、確かにビールの方が、ばらつき・リスクが大きいことが確認できました。


でも何だかピンと来ませんね。分散はピンと来ないのです。標準偏差ならもっとピンと来るはずです。次回はステップ7として、標準偏差を求めます。

>> 確率変数の「平・分・共・標・相」(4)標準偏差