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ソロー・モデル3(考察編)


おさらいすると、ドーマー・モデルでは、貯蓄・投資をしていれば、経済は一定の成長率でずっと成長し続けました。一方のソロー・モデルでは、資本が少ないうちは急速に成長し、2,30年もすると成長は止まりました。


この違いは、生産関数の違いから来ています。ドーマーは、資本の量 K_t を増やせば、産出 Y_t もそれに比例して増える生産関数を仮定しました。

    \begin{eqnarray*}Y_t=AK_t\end{eqnarray*}


一方のソローは、産出は資本と労働両方の関数であると仮定しました。

    \begin{eqnarray*}Y_t=K_t^{\alpha}(AN_t)^{1-\alpha}, \hspace{10mm} 0<a<1\end{eqnarray*}


後者の場合、(労働を変えずに)資本の量だけ増やしても、産出は比例して増えはしません。グラフで表せば、次のような違いがあります。


パソコンを使って生産をする企業を想像してください。ドーマー・モデルでは生産は単純にパソコンの台数に比例します。ですから、パソコンの数が2倍になれば生産も2倍、パソコンの数が100倍になれば生産も100倍です。


一方、ソロー・モデルでは労働者がパソコンを用いて生産します。100人の労働者がいる事業所で、パソコンが10台から20台に増えたら、生産は倍増するかもしれません。でも、10台から1000台になったからといって生産は100倍にはならないでしょう。パソコンに限らす、機械でも、車でも同じことです。


この「生産関数の違い」が、貯蓄・投資によって成長し続けるドーマー・モデルと、貯蓄・投資をしていても2,30年で成長が止まるソロー・モデルの違いとなって現れます。ドーマー自身も、のちにソローのモデルの方が良いと認めました。


それでは、先進国はどのようにして200年間成長し続けたのでしょうか。これに対するソローの答えは、「テクノロジーが進歩し続けたから」です。ソローのモデルでは、技術水準が成長率 g で増加します。

    \begin{eqnarray*}A_{t+1}=(1+g)A_t\end{eqnarray*}


前回のシミュレーションでは、g=0 と設定しましたが、試しに g=0.004(年率0.4%)としてシミュレーションしてみましょう。その他の設定は前と同じです。


資本が希少なうちは急速に成長し、資本が十分蓄積されたあとは、一人当たりの生産や消費が一定率(年率0.4%)で成長しています。このように、ソロー・モデルにおける長期的な経済成長率は、テクノロジーの進歩のスピードに等しくなります。


ではテクノロジーを進歩させる(g の値を大きくする)にはどうすれば良いかという問いですが、g は外生パラメータですから、ソロー・モデルでそれに答えることはできません。ソロー・モデルでは、長期の経済成長率がどのように決まるかは分からないのです。


これで経済成長論の入門的な話は終わりです。引き続き経済成長論に興味のある人は、「経済成長理論・中級」のシリーズに進んでください。(未定)