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労働者の生涯所得2


前回の続きです。前回は、状態0(失業中)の労働者の生涯所得を、再帰性を用いないで求める場合を説明しました。今回は再帰性を利用します。


生涯所得は、今現在の状態が0か1かで変わってきます。現在状態0の労働者の生涯所得を W_0 とおきましょう。W_0 は、下図の緑線で囲まれた部分に含まれる全てのペイオフを算入した割引現在価値です。




一方、現在状態1の労働者の生涯所得を W_1 とおきましょう。W_1は、下図の赤線で囲まれた部分の全てのペイオフを算入したものです。




W_0W_1 の中に、再び W_0W_1 が現れることに気づくでしょうか。



再帰性に着目すれば、W_0W_1 は単純な連立方程式から求まります。まずは W_0 がどう表されるかを考えてみましょう。再帰性により、右辺にも W_0W_1 が登場します。

    \begin{eqnarray*}W_0 &=& b + \frac{1}{1+r}\left[(1-p) W_0 + pW_1\right]\end{eqnarray*}


今現在状態0である場合、今期ただちに b 円を得ます。それが右辺の第1項です。1期後は確率 1-p で状態0のままか、確率 p で状態1となります。前者であれば生涯所得は W_0 であり、後者では生涯所得は W_1 です。したがって、1期後の生涯所得の期待値は (1-p) W_0 + pW_1 となります。これを \frac{1}{1+r} で現在に割り引いたものが右辺の第2項です。先ほどの b 円との和が、現時点での生涯所得です。


次に、W_1 がどう表されるかを考えます。

    \begin{eqnarray*}W_1 &=& w + \frac{1}{1+r}\left[\delta W_0 + (1-\delta)W_1\right]\end{eqnarray*}


現在状態1であれば、今期ただちに w を受け取り(右辺第1項)、1期後は確率 \delta で生涯所得 W_0 を得、確率 1-\delta で生涯所得 W_1 を得るので、それらの期待値を計算して \frac{1}{1+r} で割引きます(右辺第2項)。それらの合計が現時点での生涯所得というわけです。


W_0W_1 以外はすべてパラメータです。例えば賃金を1に基準化し (w=1)、失業中の利益をその40% としましょう(b=0.4)。また、失業者が仕事を見つける確率を p=0.4,就業中の人が失業してしまう確率を \delta=0.1 としましょう。割引率を r=0.1 とするなら、

    \begin{eqnarray*}W_0 &=& 0.4 + \frac{1}{1.1}\left[0.6 W_0 + 0.4W_1\right]\\W_1 &=& 1 + \frac{1}{1.1}\left[0.1 W_0 + 0.9W_1\right]\end{eqnarray*}


すなわち

    \begin{eqnarray*}&&\frac{5}{11}W_0 - \frac{4}{11}W_1 =0.4\\&&-\frac{1}{11} W_0 + \frac{2}{11} W_1=1\end{eqnarray*}


です。この連立方程式を解くと W_0 =8.8W_1 = 9.9 となります。現時点で就業している方が、生涯所得(割引現在価値)は高いことが分かります。


次回は今回と似ていますが、企業側の例を考えてみたいと思います。

>> 再帰性(5)ジョブの現在価値