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総貯蓄 その2

前回説明したように、一国の総貯蓄を考えるとき、お金や証券を積み増すことをイメージするのは正しくありません。そうではなく、実質的なリソース(財やサービス)で積み増すイメージをしなくてはいけません。農作物や燃料、建築物や工業製品、それに人々のスキルや労働力といった様々なリソースを想像してください。たとえば人々が節電した分、電力会社が燃料を備蓄したら、これは一国全体でも貯蓄とみなせます。ロビンソン・クルーソーが、収穫したジャガイモの一部を、食べずに缶詰にして蓄えたとすれば、これも島全体にとって貯蓄です。


ただ、消費しなかったモノは何でも在庫にできるというわけではありません。あなたが美容院に行くのを我慢して貯金したところで、そのぶん美容師さんの仕事が減るだけです。散髪は備蓄できませんから、総貯蓄は増えません。一般に、あなたが消費を我慢して個人的に貯金したからといって、そのぶんモノが廃棄処分されてしまったり、暇を持て余す労働者が増えたりするだけなら、国全体での貯蓄は増えないのです。


国全体でも貯蓄が増えるのは、以下の2つのうちのどちらかが起こった時です。1つめは既に述べたように、リソースが在庫として蓄えられたとき。2つめは、リソースがビジネスのために投資されたときです。例えば、収穫したジャガイモを食べずに翌年のために畑に植えたならば、これは貯蓄となります。そのほかにも、例えばあなたがマイカーを買うのを我慢した分、タクシー会社がその車を買うとか。病気が完治したあなたが医者に行くのをやめる一方で、医療系企業がその医者を雇って医療研究を進めるとか。ビルが建ったり、道路が伸びたり、新技術が開発されたりするなど、将来のためにリソースが蓄積されたとき、それが一国全体にとって貯蓄となるのです。


前回、前々回のテーマであった「投資」の話と、なんだか話が似ているなあ、と感じた人は正解です。企業が新しく車を買ったり、研究開発したりするのは、マクロ経済学的には将来の生産を増やすための投資です。個人の貯蓄行動のうち、巡り巡ってマクロ経済学的な投資につながるものが、国全体の貯蓄にもつながるのです。貯蓄と投資が表裏一体になるのが、「国全体」で考えたときの特徴です。


ちなみに、銀行に預金したり株を買ったりすることじたいは総貯蓄にならないと説明しましたが、それらはサポート的な役割を演じます。金融は、リソースがうまくビジネスに回される過程を円滑にしてくれるのです。あなたがマイカーや医療サービスを我慢して銀行に貯金したり、証券に投資したりすれば、企業は、たとえ今は手持ち資金がなくても、そのお金を借りることで、車を買ったり医療研究したりすることができるからです。


今回のポイント:
人々の貯蓄行動のうち、国全体にとっても貯蓄となる「マクロ経済学的な貯蓄」は、「マクロ経済学的な投資」と同値である。


次回からは「産出」、とくに国内総生産 (GDP) についてお話しします。


>> マクロ経済学の基本用語シリーズ(5)産出1.GDPの定義と目的

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