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産出

その1.GDPの定義と目的

マクロ経済学が「総生産」、あるいは単に「生産」や「産出」と呼ぶものは、一国で生産された全ての財とサービスを合計したものです。もちろん、生産されるものには、さまざまな農作物、工業製品、サービスがあります。単位も質も異なるものを合計するには、全てをお金に換算して足し合わせるしか方法はありません。そうやって、価値換算して足し合わせたものが、一国の産出(英語で output)です。


この「産出」の指標が、GDP(国民総生産)です。今日から3回にかけて、GDPの定義・目的・限界を勉強します。多くの授業や教科書は、すぐにGDPの細かい知識、たとえば「家事サービスはGDPに含まない」とかを教えますが、大事なのはそういった細かいことではありません。どうしてそうなっているのか、GDPのそもそもの目的や限界を知る方が理解の近道ですから、そちらを優先させましょう


まず、GDPの定義は、「その年その国で作られた財・サービス全て」です。その年に作られた、というのが重要で、作られた財が売れたか在庫になったかは関係ありません。売れずに廃棄されたサンドイッチは含みませんが、遅かれ早かれ売れるスマートフォンや車は、作った時点でGDPに含みます。逆に、去年作られた車が今年売れたとしても、その車の価値がGDPに加算されることはありません。
GDPは「その年に作られたもの」です。


「何がどれだけ生産されたか」とひとことで言いますが、実際に推計するのは大変で、様々な機関の協力が必要です (*1)。例えば2015年の統計では、農林水産省からは青果、食肉、水産物、製材などの統計、国土交通省からは建造物や住宅、船舶、交通や旅行に関する統計が利用されました。また、経済産業省からは工業、鉱工、商業など、総務省からは人口、労働力、家計、物価、土地、通信など、財務省からは企業、国際収支、貿易など、厚生労働省からは勤労や介護事業などに関する調査が利用されました。


その他にも情報を提供する機関としては、観光庁、資源エネルギー庁、農畜産業振興機構、日本フードサービス協会、日本たばこ産業、日本郵便、日本銀行、日本政策投資銀行、東京証券取引所、生命保険協会、人事院など。GDPの推計は、さまざまな省庁や機関の統計・調査を駆使した、まさに国家の一大プロジェクトと言えます。


そもそもGDPを算出する目的は何でしょうか。それは生産活動の活発さを測る指標とすることです。世界恐慌期に信頼できるデータがなかったことへの反省から、2つの大戦間の時期に欧米諸国が、本格的に推計し始めたと言います(*2)。たとえて言うなら、医療目的で体温や血圧を正確に継続して測ることに似ています。何がどれだけ生産されているかを毎年計算していれば、「長期的にみて経済は成長しているか」や「不況はどれくらい深刻か」が把握しやすくなるというわけです。


今回のポイント:
GDPは「その年その国で作られた財・サービス全て」で、生産活動の指標として利用される。


GDPの定義と目的は分かったでしょうか。GDPの目的を踏まえて、次回はGDPに入るものや入らないものの例を見ていくことにします。


>> マクロ経済学の基本用語シリーズ(6)産出その2.GDPに含まれるもの、含まれないもの



(*1) 内閣府・国民経済計算推計手法解説書(四半期別 GDP 速報(QE)編)平成 23 年基準版
(*2) トマ・ピケティ『21世紀の資本』p62