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総貯蓄 その1
マクロ経済学の「マクロ」は「一国全体」の意味です。だから「生産」と言えば、その国の全ての生産者による合計の生産を意味します。また「消費」と言えば、その国にいる全員の消費の合計を意味します。それを強調するために、「総生産」とか「総消費」などという場合もあります。
さて、国全体を考えると、とたんに難しくなるのが今日のテーマ、貯蓄(総貯蓄)です。個人にとってはお金を貯めること、銀行に預金したり、株式を買ったりすることが貯蓄になります。しかし、国中の全ての家計、企業、銀行、政府の貯蓄の合計となると、そのような日常的な貯蓄のイメージは通用しません。それをこれから説明します。
まず、総貯蓄は「お金」でイメージすることができません。あなた個人の話ならば、3万円のバイト代を使わないでとっておけば貯蓄となり、美容院で使ってしまえば貯蓄になりません。単純ですね。でも国全体の合計だったらどうでしょうか。あなたがバイト代を使えばその3万円は別の人のところに行きます。誰のところに行こうと、3万円は3万円で、結局は誰かの財布か引き出しか金庫に存在しています。あなたが貯金箱に3万円を入れるか美容院で使うかによって、一国の総貯蓄が変わることはありません。「お金を使えば貯蓄にならず、お金を使わなければ貯蓄になる」というのは、総貯蓄に関しては誤りです。
次に、総貯蓄は「債権」でイメージすることもできません。たとえば銀行にお金を預けるということは、銀行にお金を貸すということです。後で返ってきたときに使えるので、貸しを作ること(=債権)は個人にとっては貯蓄と言えます。でも、100万円貸すのが100万円の貯蓄になるなら、100万円借りて使うことはマイナス100万円の貯蓄になります。総貯蓄は国中の全ての家計、企業、銀行、政府の貯蓄の合計なので、全員分を足さなければいけないのですが、貸す人がいれば必ず借りる人がいるので、全部相殺されて常にゼロになってしまうのです。
さらに、総貯蓄は「株式」でイメージすることもできません。株が売買によって誰かの手から別の誰かの手に移るだけでは国全体では何も変わりません。また、あなたが保有する企業が株式を発行し、その株をあなた自身が買い取ったとしても、それだけでは総貯蓄は変わりません。あなたが株という紙を受け取る代わりに、お金があなたの貯金箱から、会社の金庫に移っただけです。
こういうわけで、総貯蓄の正しいイメージは、現金や預金や株式の積み増しではないのです。総貯蓄を考えるときは、お金の積み増しではなく、実質的なリソース(財やサービス)の蓄積でイメージしなければなりません。次回はそれを説明します。
今日のポイント:
総貯蓄には、個人の貯蓄のイメージが通用しない。
>> マクロ経済学の基本用語シリーズ(4)総貯蓄 その2