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中間財でも最終財でもあるジャガイモの例

前回勉強した「付加価値」の計算を、今回から発展させていきますが、その前にちょっと用語の解説です。経済理論では、企業の生産の原材料となるものを「中間財」とか「中間投入」と言います。一方、最終的に消費者の消費や企業の投資に使われる財を「最終財」と言い、最終財として使うことを「最終需要」と言います。お米は、回転寿司がお寿司の生産に使えば「中間投入」で、あなたが買って朝ごはんに食べれば「最終需要」です。


さて、「付加価値」の話に戻りましょう。前回は2つ財があって、一方が中間財、もう一方が最終財、という場合を勉強しました。中間財として100億円分の小麦を使い、最終財として400億円分のパンが作られたら、パンの付加価値は300億円でしたね。このように、中間財と最終財がはっきり分かれていると、付加価値を求める計算は単純な引き算です。


しかし、実際のマクロ経済では、「ニワトリの生産には卵が必要で、卵の生産にはニワトリが必要」と言った具合に、さまざまな財が互いに互いの中間投入になっているのが実情です。そのような場合にも付加価値を計算し、GDPを算出するための理論を作ったのは、経済学者のレオンチェフ (1905-1999)です。彼はこの理論で1973年にノーベル経済学賞を受賞しました。このシリーズでは、3つの例題を通して、一歩ずつレオンチェフのアイディアを説明したいと思います。


まずはタイトルにあるように、中間財でも最終財でもある、唯一の財が存在するケースです。例えば、ジャガイモは最終財として消費者の口に入ることもありますが、種芋として植えられることもあります。ジャガイモはジャガイモ自身の原材料になるという意味で、「中間財」としての側面も持つのです。そのような例で付加価値を計算してみましょう。

例題1
今、ジャガイモしか存在しないA国では、ジャガイモを1単位収穫するために、0.25単位のジャガイモを植えなければならないとする。ジャガイモが100億円分生産されたとすると、原材料として使われた分をのぞいた、「付加価値」はいくらか。


ジャガイモを生産するには、ジャガイモを倉庫や隣国から借りてきて植えなければなりません。そうして100億円分のジャガイモを収穫したからといって、それがまるまるGDPにはなりません。原料として植えた分を差し引く必要があります。パンの付加価値を求めるために原料の小麦の価値を差し引いたのと同じです。ただ今回は、原料も出来上がりもジャガイモなので、少しややこしくなります。


しかし整理して考えれば難しくありません。「1単位収穫するには0.25単位植えろ」ということですから、100億円分のジャガイモを生産するには、25億円分のジャガイモを植える必要があります。植えられた分が25億円分、最終的に収穫されたのが100億円分。生産によって生まれた付加価値は、差額の75億円分です。この例では最終的に消費者の口に入る「最終需要」が75億円分ということになります。イメージ的には、まず25億円分のジャガイモを倉庫から借りてきて植え、100億円分のジャガイモを収穫し、そこから25億円分は倉庫に返して、残りの75億円分が食べられる、という感じです。この国のGDPは75億円となります。


さて、この例ではジャガイモ産業が生み出した「付加価値」は75億円分、ジャガイモの「最終需要」も75億円分で区別がつかなくなっていますが、これはジャガイモという1種類の財しか存在しない設定だからです。財が他にもあるときは、ジャガイモ産業の付加価値とジャガイモの最終需要は異なります。そこで次回から、財が2種類以上あるケースを考えていきましょう。

>> GDP算出のための付加価値理論(3)中間財でも最終財でもある小麦と、最終財たるパンの例