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スタッグ・ハント(鹿狩り)ゲーム
コーディネーション・ゲームでは、拍手やパーティーのように、みんなが賛同すればみんなハッピーです。全員の利害が一致しているのですから、「調整の失敗」は簡単に回避できそうな気がします。ところがそう楽観的でもいられない場合があります。それは、仮に他の人が賛同してくれなかった場合に、賛同した人の被るダメージが大きい場合です。
アメリカの若者たちが集うナイトクラブの例を思い出してください。ナイトクラブは遠くにあって、行くのが大変だとしましょう。先週の時点では、友達はみんな「絶対行く」と言っていたけど、今日は朝からすごい雨。わざわざオシャレして行ったのに誰もいない、なんて悲しいですよね。ナイトクラブに行くという選択肢は、みんなに会えれば最高に嬉しいけれども、会えなかったら最高に悲しいという意味で、「リスクが高い選択肢」です。一方、家でおとなしくテレビを見ているという選択肢は、他の人の行動にあまり影響を受けない、「手堅い選択肢」です。クラブに集まることが全員にとってどんなにハッピーなことだったとしても、無難に家でテレビを見ていようと思う人が出てくるかもしれない。「調整の失敗」が頭をよぎります。
この種のコーディネーション・ゲームは「スタグ・ハント(鹿狩り)ゲーム」と呼ばれています。名前の由来となっているのは、中学校でも習う思想家ルソーの寓話です。みんなが鹿狩りに協力すれば、鹿という大きな獲物を捕らえられる。一方で、1人だけウサギの穴を探すという、旨味は小さいが手堅い選択肢もある。誰か1人でもウサギの穴を探すことに気をとられていると、結局鹿は捕まえられない。他の人を信じて鹿狩りに集中するか、自分は1人ウサギの穴を探しているか、どちらか一方を選ぶというゲームです。
このように、旨味は小さいが自分1人でもなんとかなる無難な選択肢と、みんなが協力してくれれば利得は大きいが、無難な選択肢に流れる人が出てしまうと最悪、というリスキーな選択肢があるのがスタグ・ハントです。
「不況はなぜ起こるのか」というマクロ経済学の未解決問題があります。よく知られた古典的な説明が、スタグ・ハント的状況における「調整の失敗」です。多くの企業が積極的に投資すれば、景気は良くなります。でもうっかり自分だけ大規模な投資をして、それで景気が良くならなかったら大変です。様子を見ながら細々と商売している方が無難だと思う人が出てくるかもしれません。多くの人がそう思うなら、自分もそうした方が身のためですね。不況はそうやって起こるという考え方があります。
いかがでしたか。ここまで、ゲーム理論で最初に勉強すべき基本4ゲームを、具体例を用いて説明してきました。4つのゲームのイメージはつかめましたか。次回はちょっとテストしてみましょう。
>> 基本4ゲーム総合テスト