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社会の中のイタチごっこ

タダ乗りゲームでは、あなたがゴミ捨てしないならルームメイトがする、相手が避けないなら自分が避ける、そういったところに状況は落ち着きます。対照的に、ジャンケンでは、相手がグーで自分はパー、のように行動が定まることはありません。あなたがパーなら相手はチョキが良く、相手がチョキならあなたはグーが良く・・・と永久に堂々巡りしてしまい、ひとつの行動に定まることはありません。だからこそ、グー・チョキ・パーという3つの行動をミックスして使うような状態に落ちつくのです。


マッチング・ペニーという遊びがあります。どんな遊びか、ペニー(1円玉)だと張り合いがないので、代わりに百円玉で説明しましょう。ルールはこうです。兄弟が、同時に「せいの」で百円玉を置きます。
2人の出した面の表裏がマッチしたら兄の勝ちで、弟の百円は兄の物。
2人の出した面の表裏が違っていたら弟の勝ちで、兄の百円は弟の物。
この、弟を捕まえたい兄と、兄から逃げたい弟のイタチごっこでは、「兄が表で、弟は裏で決まり」のように1つの行動に定まりません。2人とも、ときには表、ときには裏と、2つの行動をミックスして出す状況に陥ります。


マッチング・ペニーは、スポーツ好きの人にとっては馴染みのある話ですね。そうです、サッカーのペナルティ・キックがこれと全く同じ状況です。シュートするキッカーは、右に蹴るか左に蹴るか決め、ボールを捉えるキーパーも、右に跳ぶか左に跳ぶかを決めます。マッチすればキーパーの勝ち、マッチしなければキッカーの勝ちです。裏表が右左に変わっただけですね。


裏か表か、左か右か、お互いに相手を出し抜こうとして、決して行動が1つに決まらない、こんな状況が果たして遊びやスポーツ以外の場面で起こりうるでしょうか。もちろん、人間社会にはそのような例がたくさんあります。


例えば、駐車料金をけちるために違法路上駐車したいドライバーたちと、それを取り締まるために街を監視して回る警察官たちを想像してください。結局、ドライバーは必ず路上駐車するとか、警察は路上駐車を必ず取り締まるとか、そういう状態には落ち着かないのです。もし警察官が本気で全ての道路をチェックするなら、ドライバーは100%捕まるので、路上駐車をすることはありません。路上駐車をするドライバーはゼロになることでしょう。


でも、もし路上駐車をするドライバーが本当にゼロだったら、警察は取り締まりをやめてしまいます。もちろん、取り締まりがなくなったら、ドライバーはみんな路上駐車をします。しかし、みんなが路上駐車するなら警察は・・・どうなるか分かりますね。結局、ドライバーたちはときどき違法駐車をし、警察もときどき取り締まる、というようなランダムな状態にしかなりません。


カンニングしたい人と試験監督者。税金をごまかしたい納税者と税務署。「捕まらないのならズルしたい」者と、「取り締まりするのも骨が折れる」監督者。私たちの社会でよく目にするイタチごっこは、サッカーのペナルティキックとよく似た「マッチング・ペニー」であると納得していただけたでしょうか。

次回は基本4ゲームの最後、「コーディネーション・ゲーム」です。

>> コーディネーション・ゲーム(1)どっちでもいいから、はっきりして!