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名称の由来
「囚人のジレンマ」という名称の由来はこうです。ある国で、二人の悪党が重罪を犯してつかまりました。一人でも口を割れば罪が立証されて、二人とも禁錮20年にできます。しかしもし二人とも黙秘すれば、証拠不十分で、せいぜい禁錮3年が関の山です。男たちもそれを知っているので、口を揃えて「俺たちやってない、潔白だ」と言い張ります。
さて、警察は二人の自白を促すようなルールを作ることができます。それはこんなふうです。まず警察は、二人の悪党を別々の部屋に連れて行きます。そして、それぞれの男に、こういうルールを提示します。二人とも口を割った場合の禁錮を18年にします。もし片方だけ口を割って、もう一方だけ口を閉ざした場合は、どうでしょうか。一人でも口を割れば二人の罪は立証されるということなので、この場合は口を閉ざした方だけ禁錮20年とし、罪を認めた方は捜査に協力したということで、3ヶ月で釈放というルールにするのです。
悪党は一人、こう考えます。共犯者が黙秘を続けたとしよう。すると、自分も黙秘すれば禁錮3年、自分だけ自白すれば禁錮3ヶ月である。だから自白するのが得だ。一方、共犯者が自白したとしたらどうか。自分だけが黙秘すれば自分は禁錮20年、自分も自白すれば禁錮18年である。やはり自白するのが得だ。だから共犯者の出方はこの際どうでもよい、自分は自白するのが常に得である!!
結局悪党は二人ともそう考えるので、二人とも自白して禁錮18年ということになります。悪党たちが陥らされたこの状況は、「囚人のジレンマ」と名付けられました。こんなふうに、警察はまんまと悪党たちに自白させるメカニズムを作ることができるのです。
今より0.01秒早く取引注文ができるシステムを、「あなたの会社だけ導入すれば得ですよ」と言って、ある企業に売り、そのあとでライバル会社に「あなたのところも導入しないと負けてしまいますよ」と言って売るのと同じです。新型兵器をこっちの国にもあっちの国にも売る死の商人と、道徳の点では違っても、構造的には同じです。学校の成績や社員の業績を「がんばりの相対評価」にすると言って、競わせるのと同じ。
このように、名前の由来はともかく、「囚人のジレンマ」という言葉は、今ではいろいろな場面で使われます。囚人のジレンマに陥ったプレーヤーたちは、抜けがけするのが常に得であるような状況に陥っているため、みんな一緒に不幸になってしまうわけです。
彼らに解決策はあるのでしょうか。プレーヤーたちが協調して、みんなでハッピーになることは可能なのでしょうか。もちろん可能です。そうでなければ、家族や親しい友人同士以外ではまったく協調が起こらないことになってしまいます。実際の世の中では、抜けがけの誘惑があっても、ライバルどうし、敵どうしですら協調が達成されることがあります。
囚人のジレンマ的状況で協調を達成する方法は主に3つが良く知られています。しかしその3つを説明する前に、囚人のジレンマによく似たゲーム「ベルトラン競争」を紹介しましょう。そのうえで、囚人のジレンマやベルトラン競争で裏切りや抜けがけを脱却して、協調を達成する方法を紹介します。
>> ベルトラン競争