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効率性と配分 その1
ニュースを見ていると、マクロ経済の話題がたくさん出てきます。一部を挙げれば、景気対策、雇用、賃金、デフレ、円高、消費税、法人税、年金、国債、金融政策などです。いったい何が問題になっているのか、ちゃんと理解したいとは思っても、数も多くてなかなか大変です。そこで今日のテーマは、マクロ経済の様々な話題の論点を整理して、理解を助けるための視点を紹介します。
マクロ経済の話題を考えるときには、2つの視点を持つことが理解の助けになります。ひとつは「効率性」という視点、もうひとつは「配分」という視点です。マクロ経済の話題は何であれ、効率性の問題としての側面と、配分の問題としての側面を持つのです。
効率性の問題とは、「どうしたら全体のパイを大きくできるか」ということです。もちろん、ここでの「パイ」は、物やお金などの経済的な恩恵を比喩的に表しています。マクロ経済学では、効率性がアップするという言葉を、みんなで分けるパイの大きさが大きくなる、という意味で使います。
一方、配分の問題とは、 「パイをどう切り分けるか、誰がどれだけ食べるか」ということです。
たとえば、技術の進歩による「経済成長」はどちらかと言うと効率性の問題です。新しい技術で経済を成長させるということは、全体のパイを大きくしていく、ということだからです。一方、税制や社会保障は、どちらかというと配分の問題です。パイをある人から取って別の人に分け与える政策だからです。
どんな問題を考えるときも、まずは「どちらかと言えば、効率性の問題か、それとも配分の問題か」を考える癖をつけましょう。例えば、「どれくらい移民労働者を受け入れるべきか」という問題はどっちでしょうか。
移民を受け入れたとしても、パイの全体量が増えるかどうかは、そんなに自明ではありません。正確に言えば、移民労働を受け入れればパイの生産は増えるのですが、移民の人たちに相応の報酬を支払う限り、もとからその国にいる人たちが食べるパイの全体量が増えるかどうかは、そんなに自明ではないのです。
移民の受け入れ問題は、どちらかと言えば配分の問題と考えられています。移民が入ってくると賃金が下がるので、労働者の所得は下がる一方、企業の利益が増えます。つまり、移民を受け入れると、もとからいる労働者のパイの一部が、企業へと移るのです。このパイの移動は、労働者への税を軽くする代わりに法人税を上げれば是正できますが、そもそも全体のパイの量が増えないのであれば意味がありません (*1)。
義務教育の充実や高等教育の補助といった、教育の問題はどうでしょうか。教育政策は、収入の多い人から税金をとって、貧しい人も充実した教育を受けられるようにする、という風に考えると配分の問題です。一方、本来なら十分な教育を受けられない人が、教育制度のおかげで医者や職人になったり、新しいソフトウェアを開発したりするかもしれません。教育のおかげでたくさんパイを作れる人が出てくるならば、教育制度の充実は効率性を上げる可能性もあります。
実際の政策では、効率性と公正な配分を両立していくことが求められますが、政府の政策にもお金がかかります。政府が収入以上に支出することを「財政赤字」と言いますが、次回はこれについて理解を深めましょう。
>> マクロ経済学の基本用語シリーズ(13)財政赤字
(*1) ノーベル経済学賞の受賞者であるバナジーとデュフロは著書『絶望を希望に変える経済学』の中で、移民が賃金に与える影響は極めて小さいという実証結果と理論をまとめています。