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資本


経済学における「資本」とは、「経済主体が蓄積する、将来の生産・所得のもととなるもの」です。蓄積されたものであることを強調して「資本ストック」と呼ぶこともあります。投資によって蓄積されるものを「資本」と言い、逆に資本を積み増すことを「投資」と言います。だから資本と投資は、ストック変数とフロー変数の関係です。


資本にはいくつかの形態があります。例えばあなたが株式や債券を保有していれば、「金融資本」を持っていると言います。株式や債券という形で富を蓄積しておくことで、将来配当や金利を受け取ることができるので、資本と呼ばれるのです。


次に「物理的資本」があります。これは主に農地や漁場、建造物(住宅・ビル)、生産設備(発電所、工場、機械)、インフラ(ダム、空港、港、鉄道、道路、学校や図書館、公園)などからオフィスにあるパソコンや飲食店の内装・調理器具などまで含みます。ぼろぼろのレストランよりも、モダンな内装とキッチンを備えたレストランの方が、より多くの客に高い付加価値を生むことができるでしょう。物理的資本は、将来の生産活動のために蓄積されてきた、目に見える資本です。


次に「人的資本」があります。たとえ工場の持ち主でなくても、健康な体があれば生産活動に従事して所得を生むことができますから、あなたの体はあなたにとって資本です。勉強や仕事を通じて得られる学歴、知識、スキル、ノウハウなども、将来の生産活動に役立ちます。物理的資本と違って目には見えませんが、資本の条件を満たしています。人的資本は、必ずしもその人自身が蓄積し、自分だけのために役立てるものとは限りません。たとえば会社が社員を育てることにより、社員たちがより付加価値の高い仕事をできるようになるのであれば、会社は人的資本に投資していると言えます。


さらに、本人が使うだけでなく、他者と共有できる「技術や知識、知的財産」も資本です。これには新しいテクノロジーやソフトウェア・アプリ、著作やアイディア、数学の定理も含みます。これらも「今までのリソースの蓄積」であり、かつ「今後の生産活動に役立ち、将来の所得につながる」わけですから、資本の条件を満たしています。


このように資本には、(1)金融資本、(2)物理的資本、(3)人的資本、(4)技術や知的財産、があります。マクロ経済学的に資本と呼べるのは、このうち後ろの3つです。金融資本の多くはマクロ経済的には資本とは言えません。あなたがある企業の社債を100万円分保有していたとすると、あなたの金融資本は+100万円ですが、借りている企業の金融資本は-100万円となってしまい、プラマイゼロとなるからです。また、あなたが株式を持っている場合は、株式じたいが資本なのではなく、あなたが株を通じて間接的に所有する企業の設備や特許が資本です。


さて、「物理的資本、人的資本、技術や知的財産」という3種類の資本があって、資本を積み増す行為が「投資」ですから、投資も3種類あります。物理的資本への投資は「設備投資」、人的資本への投資は「教育」、技術や知的財産への投資は「R&D (研究開発)」と呼ばれたりします。新しい技術が生まれると、人々が新しい知識を習得し、新しい設備が導入され、生産が増えます。それが経済成長です。新しい技術が経済成長の原動力になることは、以前お話しした通りです。


ここまでマクロ経済学の基本用語として、消費、投資、貯蓄、産出、資本などについて説明してきました。次回は少し視点を変えて、マクロ経済を語るうえで欠かせない「効率性と配分」という2つの軸についてお話しします。


今回のポイント:
投資によって蓄積される「資本ストック」には、物理的資本、人的資本、技術や知的財産がある。

>> マクロ経済学の基本用語シリーズ(12)効率性と配分 その1

眞踏珈琲店(東京 小川町)